背景・目的

背景

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)や,重度のCP(脳性まひ)などの重度肢体不自由者の場合,発声ができず,かつ随意的に動かせる身体部位が1箇所だけという場合がある.このような重度肢体不自由者が,本人の意思を単語または文にして表現したいときには,動かすことのできる部位だけを使って走査法文字入力を用いることが一般的である.しかし,走査法文字入力で単語や文を入力しようとする場合,ユーザはひとつのボタンを押すことでしか入力することができないため,当該行・当該文字にカーソルが到達するまで待たなければならず,一文字一文字を入力するのに非常に多くの時間を要する.

目的

 走査法文字入力における入力時間を短縮させるために,仮名文字列の出現頻度に偏りがあるという統計的性質を利用した付加文字盤というものが,樋口先生がリーダーを務める共同研究にて考案された.本実験ではその有効性について検証した.
 通常の走査法文字入力で使用する50音表の文字盤の先頭に,先行する文字の次に入力する可能性の高い仮名文字5文字を設置する.この先頭に置く5文字のことを「付加文字盤」と呼ぶことにする.この付加文字盤を用いることにより,入力速度の向上を狙う.しかし,付加文字盤を使って入力速度の向上が望めると同時に,付加文字盤に目的の文字か含まれるか否かを確認するための労力を要することとなる.そこで,50音表の中で付加文字盤に含まれる文字には,付加文字盤と対応する背景色を設置することにより,目的の文字を付加文字盤から探す労力や精神的負荷を低減させる.
 このとき,通常の文字盤と,同じ背景色を持つ付加文字盤付き文字盤,異なる背景色を持つ付加文字盤付き文字盤の3種類において,入力速度,精神的負荷,利用者アンケートの3つの観点から比較し,背景色の異なる付加文字盤付き文字盤の優位性を報告する.