本システムは重度肢体不自由者の操作スイッチ適合に関わる専門家にシステム評価を依頼した.対象としては入力機器メーカー,医療関係者,リハビリテーションエンジニアである.
A.入力機器メーカー
入力機器メーカーを2件訪問し,評価をいただいた.内容については以下にまとめる.
事例情報を専門家が登録していき,その情報を専門家以外のユーザもwebを利用することで閲覧できるという点は既存のシステムにはないものであり,評価できる.しかし,これからシステムを運用していくにあたり,スキルのあるなしにかかわらず専門家が事例を登録していけるという点では,スキルの乏しい専門家の登録したデータも混在することになるので,データの質の低下が懸念される。
市販の操作スイッチは80種類くらいあるが有効に使えてないケースが多々ある.それらが活かされるシステムとなれるかが課題.
製品情報については各メーカーに偏りなく,正確に情報を盛り込むことが重要である.
事例入力項目の“確実な再現性のある動作”は動作に関する定義づけを学術的に正しいものにしていく必要がある.
症例の履歴検索では,どのように整合性を持たせていくのかに疑問.症例番号で行うのか,それとも入力者で行うのか.以前,入力したことを忘れ別の人としてデータ入力してしまう恐れがある.
B.医療関係者とリハビリテーションエンジニア
国立障害者リハビリテーションセンター(以下,国リハ)内で実際に重度肢体不自由者に関わりのある作業療法士,理学療法士,言語聴覚士,リハビリテーションエンジニアにシステム評価を依頼した.以下に,その際の評価についてまとめる.
専門家が事例を登録していけるという点,また適合に関する評価を事例として残せる点について独自性があり,有用である.
本システムが使用可能になると,入力機器にあまり詳しくない者にとって,対応したことのない疾患などの事例を参考することができるので,リハビリの選択の幅がより広がるのではないか.
事例情報の項目“疾患名”や“障害の状態”などレイアウトが見づらい.
各項目のスペースが狭いため,文章が読みにくい.
入力機器の適合における経験の浅い専門家の学習教材として本システムが活かされる.
試験的な段階ではあるが,現段階のシステムをリハビリテーションセンター内で稼働させ,業務に活かすことのできる完成度はある.
進行性の疾患(ALSなど)において,どのような身体機能レベルであればどのようなスイッチが適合する,などの事例が分かれば有益.
課題
1)事例情報の入力項目の再考
それぞれの分野の専門家によって,“対応する患者の疾患の種類”や“患者にどのようなサービスを提供するのか”など異なるため事例情報に求める項目もそれぞれで異なるという点において,どの分野の専門家が事例情報を入力する際に不備のない項目作りを今後行っていく必要がある.そのために,他分野の専門家の意見を仰ぎ,項目を取捨していくことが重要である.
2)ユーザインタフェースの工夫
“事例情報の項目「疾患名」や「障害の状態」などレイアウトが見づらい”,“各項目のスペースが狭いため,文章が読みにくい”などの評価を受け,情報を個別で出力させることでより詳細な情報を閲覧し易くする配慮も必要である.情報の検索方法についても,身体の残存機能によって,どのような操作スイッチが適合するのかなど,重度肢体不自由者の身体特性に着目した検索方法を構築していくことがさらなるユーザインタフェースとしての質の向上につながると考える.
3)事例情報と製品情報の充実
現段階でシステム内には事例情報38件,製品情報25件の情報が登録されている.これは著者が専門家(10名)に依頼し,登録していただいた事例情報とシステム管理者である著者が登録した製品情報数である.この情報量では実際にシステムが活用される土台とはいえない.今後,まず土台となる情報を収集するためにも,1)で説明した事例情報の入力項目の問題点を改善していくことや,いままで関わりのなかった他分野の専門家と積極的に連絡をとり連携していき,事例情報を入力していただく協力を得ることが必要である.
4)運用方法の確立
今後のシステムの運用方法として,まず,共同研究を行っている国立障害者リハビリテーションセンターに試験的に導入予定(2009年3月)であり,その導入後の経過次第で,センターの正式なサーバでの管理手続きが終わる6月以降の完全な移植を目指す.
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