2008年度 修士論文
「重度肢体不自由者のための入力機器使用事例・製品検索システム」

情報バリアフリー研究室 吉村 啓太郎
Contents  1.概要  2.背景 3.システムの特徴  4.実行画面  5.評価・課題 6.結論

社会的背景

 人間の情報送出の過程においては発話,表情,ジェスチャ,機器操作などがあるが,重度の肢体不自由者の場合,可動部位が限られているために上記の選択肢のいくつかが使えないケースがある.身体の残存機能の少ない重度肢体不自由者はスイッチなどの単純な動作で情報送出できる入力機器の利用により,意思伝達や家電の制御,パソコン操作などを行っている.

 重度肢体不自由者の例として進行性の疾病である筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)の患者を挙げる. ALSの患者は病状の進行具合によって可動部位が徐々に少なくなっていく.まず四肢が動かなくなり,発話が困難になって,さらに病状が進行すると,顔面の一部の筋肉の動き,例えば目の動きや眉毛の動きのみで情報送出を行わなければならない.その際,まばたきを感知し情報を送出させることのできるまばたきスイッチや,眉を意図的に上げることなど身体の動きにより生じる微弱電流を感知し,作動させることができる筋電スイッチなどを使用することで情報を送出することができる.このように,重度肢体不自由者の様態は同一の疾病であっても個々人によって障害の程度に大きな差があり,原因疾病の種類によってもそれは千差万別である.さらに,入力機器の種類も種々存在する.そのため,使用できる入力機器や入力機器を使用するための方法もまた個々人によって異なるのは言うまでもない.

 従来,重度肢体不自由者の入力機器選択の場面において,作業療法士やリハビリテーションエンジニアなど専門家が相談窓口となり,経験に基づいて,知っている選択肢の中から患者に適した入力機器と使用方法を提供している.しかし,この場合,熟練に時間がかかる,作業療法士やリハビリテーションエンジニアなど専門家相互のノウハウの共有化が難しい,新しい機器やふだん使わない機器を考え落とす可能性がある,類似例の少ない障害への対応が難しい,等の問題点がある.

 これらの問題点に対して本システムは専門家(ここでは作業療法士やリハビリテーションエンジニアなどが該当する)が蓄積してきた重度肢体不自由者に対する入力機器選択のノウハウ(患者の疾患や障害の状態に応じてどのような機器を提案したか,入力機器の設置場面の写真などの種々の入力機器使用に関する情報)と入力機器の既製品の情報,の2種類の情報をデータベースにて管理し, web上で閲覧できるようにし,本システムが専門家同士の知識共有の場として,また,新製品情報獲得の場として,実際に重度肢体不自由者に機器を提案する場にて活用されることで,以上の問題点の解決する.


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