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![]() ・研究の概要 ・触読シミュレーション部について ・触読時間シミュレーション部について ・まとめ ・リンク |
![]() 全盲の視覚障害者であっても「触図」や「音声情報付き触図システム」を用いることで,地図や街路,フローチャート等の情報を得ることが可能である.触図とは,図や絵の輪郭を点や線の凸部と点字を組み合わせて表した図である.また,音声情報付き触図システムとは,2008年3月に情報バリアフリー研究室を修了した五島 幸訓氏が開発し,現在も情報バリアフリー研究室で研究を行っているシステムである.音声情報付き触図システムは触図とパソコン,タッチパネル,専用のブラウザを組み合わせ,触図の情報を音声で案内することが可能なシステムである. ![]() 触図を指でなぞり,触図上の情報を読み取る動作を触読と呼ぶ.触読による情報の読み取りと,視覚による情報の読み取りは根本的に異なるものであり,晴眼者にとって未知の世界であると言える. これまで,触図や点字の読みやすさに関する研究や白濁,視野狭窄等の軽度の視覚障害を模擬するシステムが研究・開発されてきた.しかし,触読という「触覚」を「視覚」で模擬するような試みはなされてこなかった. ![]() 本研究では,視野の限定とぼかし処理を用いることで触覚を視覚で模擬するシステムの試作を行った.その結果,晴眼者が触読の動作を直感的,視覚的に理解しやすくなるシステムが構築できた.また,触図上の情報量を時間によって定義し,触図上の情報を読み取るまでに要する時間の予測モデルを重回帰分析を用いて構築し,相関係数0.93という高い精度で予測可能にした.本研究によって,あらかじめ触図上に触読が困難な箇所がないようにチェックすることを可能にすると共に,触図上の情報量の過多を避け,情報量を適切に制御することが可能となる. 本システムは大きく分けて触読シミュレーション部と触読時間予測部から構成される.本システムと触読の情報の読み取りの流れを示す. ![]() 目次へ戻る ![]() (1)触読と視覚の違い 本研究では,触覚を視覚で模擬するため,指の腹で行う触読の特徴から①「情報の並列性の差」と②「分解能の差」というものに着目している.情報の並列性とは,一度に得ることができる情報量を指す.また,分解能とは,得ることができる情報の細かさを指す.まず,この2つの視点から触読と視覚の差異についてまとめる. ①情報の並列性の差 視覚の場合であれば,パッと見るだけで,一瞬で全体像を把握することが可能である.一方,触覚では,一度に得ることができる方法量は指の腹程度である. ②分解能の差 分解能の差については,視覚の場合は1mm以下の情報でも識別可能である.触覚の場合では,たとえば点字の1つの打点の大きさはおよそ2mmであり,これが分解能の限界であると考えられる. 以上のような特徴を踏まえ,本システムでは情報の並列性の差を「触読範囲限定機能」で,分解能の差を「分解能調整機能」でそれぞれ模擬している.この対応関係を下図に示す. ![]() (2)分解能調整機能 (1)で述べたように,指先で触るという制約があるため,触読は非常に分解能が低い.つまり,視覚と触読で同じ箇所を参照していたとしても情報の細かさはまったく異なっている.たとえば,下図のように,路線を表す黒い線において,視覚で見た場合ははっきりと線が分かれていることが判別できる.しかし,触読でこの情報を参照すると,線同士が接近しすぎている場合にはつぶれてしまっており,触読することが困難になっている. ![]() そこで,このような状態を模擬するため,分解能調整機能を用い,触図を作成する際の元となるデータである触図用画像データに対し平滑化処理を行い,シミュレーションに適した触読シミュレータ用画像データを作成する.これにより,全体的にぼけた画像データが作成される. (3)触読範囲限定機能 次に,触読範囲限定機能について述べる.触読範囲限定機能は,触読の情報の並列性を視覚的に模擬するための機能である.先に述べた分解能調整機能を用いて作成した触読シミュレータ用画像データをシミュレータに読み込むと,読み込んだ画像の上にマスキング用の画像が重なって表示される.マスキングされた部分にカーソルを持っていくと,カーソルの周辺に穴が開き,背後の画像が狭い範囲で表示される.穴はカーソルに追従するようになっており,のぞき穴を通し,少しずつ画像全体を探っていくように動作する. ![]() 目次へ戻る ![]() 本研究では,触図上の情報量を時間として定義した.そして,触図用画像データから「触読時間」(触図上の情報を読み取るために要する時間)を予測できるような「触読時間予測モデル」を構築した. (1)触図の分類 1つの予測モデルをからすべての触図について説明することは非常に困難である.そこで本研究では,触図をその種類ごとにタイプ分けしている.触図のタイプは全部で3種類である. ![]() それぞれの触図の具体例を次に示す. 触図タイプⅠ例:街路図,路線図,フローチャート等 ![]() 触図タイプⅡ例:例:鉄道や道路の情報を持たない日本地図,行政区画を表す図,理科の教材等 ![]() 触図タイプⅢ例:例:山脈,河川の情報を持つ日本地図や鉄道路線情報を持つ行政区画を表す図等 ![]() (2)触読時間要素の検討 次に,触読時間に影響を及ぼす要素である「触読時間要素」について,触図タイプⅠおよび触図タイプⅡの検討を行った. ①触図タイプⅠ 目印:建物や場所の名前を表す箇所 分岐点:2つ以上の線が合流している点 屈曲点:曲がり角 面積:触図として囲まれた部分 総延長:触図の線部分の長さ ![]() ②触図タイプⅡ 領域:都道府県名や行政区画の名前を表す箇所 分岐点:2つ以上の線が合流している点 屈曲点:曲がり角 面積:触図として囲まれた部分 総延長:触図の線部分の長さ ![]() (3)触読時間予測モデルの構築 予測モデルを構築するため,実際に視覚障害者の方に協力してもらい様々な触図を触ってもらい,触読時間の計測を行った.これらの結果に対し重回帰分析を用い,予測モデルを構築した.触図タイプⅠ,触図タイプⅡの予測モデルをそれぞれ次に示す. ![]() 目次へ戻る ![]() 触読により情報を得るということは,我々晴眼者が普段視覚を通して情報を得るということと根本的に異なったものである.その違いは,情報の並列性と分解能の性能差が特に大きい.また,情報を得るプロセスも異なっており,我々の想像の及ぶところではなかった. そこで,本研究では触読の動作を視覚的に模擬可能な触読シミュレータを試作した.また併せて,触図の情報量を時間という尺度で予測する触読時間の予測という手法を考案した.触読シミュレータは触読範囲限定機能と分解能調整機能から構成されており,それぞれの機能を用いることにより触読における情報の並立性と分解能を模擬することを可能とした.また,実験を行うことで,触読に要する時間である触読時間の要因となる触読時間要素について分析し,触読時間を予測する触読時間予測モデルを構築し,相関係数0.93という高い精度で予測可能とした. 以上のように,触読シミュレータの構築により,触読というまったくの未知の世界を,晴眼者にとってもイメージできるようにした.触読シミュレータを用いることで,実物の触図を必要とすることなく触図の評価が可能となり,あらかじめ触図上に触読が困難な箇所がないようにチェックすることを可能とした.また,触図用画像データを用いることで触読時間を予測可能にし,予測した触読時間を用いることで,触図上の情報量の過多を避け,情報量を適切に制御することが可能となった.以上により,視覚障害者にとって従来よりもさらに使いやすい触図の作成を支援することが可能になったと考えられる. 目次へ戻る ![]() ○立命館大学 ○立命館大学 情報バリアフリー研究室 ○2007年度 修士論文 「視覚障害者のための音声出力図」 目次へ戻る |