2007年度 修士論文
『視覚障害者のための音声出力図』
五島 幸訓





目次

●研究概要
●触図
●触図の問題点
●試作したシステムの概要
●試作したシステムの利用の流れ
●まとめ
●リンク

■研究概要

 視覚障害者のうち,点字を触読することができるのは,ほんの一部である.そのため,視覚障害者用の図である触図でも,点字を触読することができないので,活用できる視覚障害者は少ない.また,点字を触読することができても,触図には,図の輪郭にそって凹凸で表現するため,健常者が使う図のように大量の情報を記載できないので,点字での図の名称や説明を省略して表記し,複数の触図に分けて表記される.そのため,図に関する前提知識が無い場合は分からなくなったり,複数の触図に分けて表記されるので図の相互関係が分からなくなったりすることがある.
 そこで本研究では,これらの問題点に対して,点字の代わりに音声で視覚障害者に文字情報を伝え,図情報は複数枚の触図で伝え,相互関係においては音声のモードを切り替えることにより解決を図るシステムの提案と構築を行った.

■触図とその問題点

 触図とは,視覚障害者のために紙などに凹凸をつけて触覚的に理解することができるようにした図のことである.よく使用されているのは,点字のような点を輪郭上に沿って打ち出すことによって図の輪郭を表現する.この触図では,文字の代わりに点字を使用するが,点字のスペースの関係上,長すぎる地名などは,略して点字で表記するという特徴がある.

 

図:触図

※『東点編集部編:新版日本地図 点図編 第4巻 近畿地方,社会福祉法人東京点』より引用


■触図の問題点

 触図の問題点をまとめると以下の4つが挙げられる.

@点字が読めなくてはならない.
 触図は,視覚障害者のためのものであるため,点字が使用されている.しかし,序論で述べたように,目がほとんど見えない重度の視覚障害者の約82.7%が点字を読むことができない.また近年の糖尿病患者の増加により,糖尿病の合併症である糖尿病網膜症が増加し,今後点字を触読することができない視覚障害者は増加すると考えられる.そのため,一部の点字が読める視覚障害者しか理解することができず,今後さらに触読できる視覚障害者の割合は低下すると考えられる.

A触図・点字の一部が省略される.
 触図では,視覚障害者用のためのものであるため,点字が使用されているが,触図の記載できる情報量の関係上,どうしても図を表している点と点字の点が重なってしまうことがある.このような場合,図の一部分を削る,もしくは,点字の文字を一部省略することにより,表記している.そのため,図を理解し難くなったり,点字が読めても何を表していることが理解できないこともあるため,あらかじめ知りたい場所の予備知識がないと理解することができない.

B触図の種類により,表現方法が異なる.
 触図でも表記する内容により記号が使用されるが,触図の作成者によって表現方法が全く違うため,理解が難しい.

C1枚の図が複数枚の触図に分けて表現される.
 触図は触って読むものなので,1枚の触図に表すことのできる情報には限界がある.そのため,健常者が利用する図のように線と線が近接していたり,重なっているような場合は,複数枚の図に分けて表記する.

 これらの問題点より,点字が触図の情報量の制限と触図の理解を困難にしていると考えられる.また,複数枚の触図に情報が分散しているため,相互関係が分かり難いと考えられる.そこで本研究では,触図から点字を省き,音声で返し,状況に応じて音声を切り替えることのできるシステムの提案と構築を行った.


■試作したシステムの概要

 本研究で試作した視覚障害者のための音声出力図では,点字を読むことができない視覚障害者でも,触覚的に図が読み取れるように点字を省いた触図をタッチパネルに載せ,押した部分を音声で返すものである.1つの触図にまとめることのできない図は,複数の触図に分け,分けた触図ごとに音声を割り当てる.相互関係を知りたい場合は,音声を切り替えることにより,案内する内容を変更する.なお,本研究では,滋賀県の地図を対象にシステムを試作した.また,点字を触読することのできない視覚障害者でも,触図の種類を判別することができるように,触図の右下にQRコードを貼り付け,QRコードを読み取ることにより,図の種別情報が音声で流され,それと同時にシステム内のデータの切り替えも行えるようにした.


 図:試作したシステムの概観  

 
 図:試作したシステムの流れ



 本システムを利用する上での利点は,3つある.
@従来の触図では,点字が印字されているため,図の輪郭を正確に読み取り難かったが,本システムでは,点字を省くことにより図を正確に読み取ることができるようになる.
A触図で図の情報と音声で案内する情報とに分けることにより,点字によるスペースの制限が無くなり記載できる情報量が増える.
B同一の対象に対して目的別に分けられていた触図(例えば,都市地図,地形地図,交通地図など)の相互関係が,図を交換することなく音声を切り替えることができるので理解が容易になる.


■試作したシステムの利用の流れ

 このシステムの利用の流れとしては,専用ブラウザを起動し,QRIME(QRコードリーダ)を起動する.そして,触図に貼り付けてあるQRコードをQRコードリーダに読み込ませ,その触図が何であるかを,音声で聞き取る.目的の触図でなければ,目的の触図が見つかるまで同様の操作を行い,目的の触図が見つかったら,触図をタッチパネルに貼り付ける.そして,知りたい部分を指でなぞる,もしくは押すことによって音声を出力する.
 複数の触図に分かれている触図の場合,テンキーを操作することによって,音声の切り替えを行う.例えば,滋賀県の都市の触図を選択した場合,テンキーの”2”を押すと,地形モードに切り替わり,テンキーの”3”を押すと鉄道モードに切り替わる.また,テンキーの”1”を押すと元の都市モードに戻る.これにより,通常の触図では,触図を重ねながら両手で読み取ることで,知りえた相互関係を1枚の触図で知ることが可能となる.
■まとめ

 点字を触読することのできない視覚障害者が触図を読み取ることができるように取り付け方タッチパネル,システム上の図データを切り替えるためのコードリーダ,QRコードを貼り付けた触図を用いることで,QRコードで図を切り替え,触ったところや押されたところを音声で返し,必要に応じて案内する音声を切り替えることができるシステムを試作した.
 この試作したシステムを用いることで,点字を触読することのできない視覚障害者は,知りたい場所を触る,又は押すと音声が流れるので触図を理解し易くすることが可能となった.一方,点字を触読することのできる視覚障害者では,従来は点字が入っていたため,点字と図を頭の中で分けて読み取る必要があったが,点字がないので,図をイメージし易くなった.また枚の図が複数に分かれている場合,従来,触図を重ねたり,両手の指で読み比べたりすることにより,相互関係を理解していたが,試作したシステムでは,音声を切り替えることが可能なので,両手の指で読み比べる必要がなくなり,視覚障害者の負担が軽減した.
 現在は地図のみで試作したが,今後は地図だけでなく,教科書などに記載されているイラストや,人体図などにも応用していくことも可能であると考えられる.


■リンク

  ●立命館大学
  
  ●情報バリアフリー研究室