
研究の目的は、新しいVOCAの開発ですが、その具現化方法として次のようなことを考えています。
@ 複数のボタンによる入力
A 小型でウェアラブルなデバイス
B 入力と音声出力を同期するシステム
この3点を実現することによって、『操作のハンズフリー』と『会話のリアルタイム性』を可能にできるはずです。
さて、本研究では、目指すべき「新しいVOCA」開発のファーストステップとして、デバイスのプロトタイプを製作しました。
ここでは、そのプロトタイプの特徴を、簡潔に説明したいと思います。
複数ボタンスイッチによる入力
現在の多くの音声出力型会話支援デバイスは、入力インタフェイスとして50音が配列された文字盤を使用しています。
この入力インタフェイスは、操作が分かりやすく扱いやすいという利点がある反面で、入力速度があまり速くないという難点があります。今回のシステムには、もっと入力速度の速いデバイスが必要です。
本研究では、この欠点を解決するために、新しいインタフェイスを製作しました。右手用、左手用の2つプラスチックケースに各4つずつ、計8個のボタンスイッチを並べられています。
ユーザは、配置されたボタンをさまざまな組み合わせで押していくことによって、文字を入力していきます。つまり、まるでピアノの鍵盤で和音を弾くように、次々と文字を入力することができるのです。
このときユーザは、左右同時にボタンを入力するのではなく、右・左・右・左と交互にリズム良く入力していきます。
入力と音声出力を同期するリアルタイムな発声システム
本システムにおいて、最も求められるのは音声出力のリアルタイム性です。ユーザの入力に対して、なるべくタイムラグなく音声を出力することが重要です。
既存のVOCAでは、イントネーションや発音の精度を上げるため、ユーザが入力した文章を一度バッファリングし、発話ボタンなどを押すことで音声を出力が開始されます。つまりユーザは、文章を最後まで入力しなければ音声発話が行われないのです。
これでは、音声出力のリアルタイム性は,実現されません。
そこで今回のシステムでは、文章のバッファリングを行わずにユーザが入力した文字を認識し、逐一音声を出力する方式をとりました。よって、このシステムにおいてユーザの入力速度と音声の出力速度が、ほぼ等しくなるはずです。
つまり、ユーザの入力速度が速ければ速いほど、音声の出力ペースも速くなり、リアルタイムな会話をすることができるようになるのです。
符号変換表の実装と運指符号の変更の簡便化
本システムでは、スムーズな会話の実現をユーザの入力速度に依存しています。入力速度の向上のためには、ユーザの訓練と習熟が必要です。
そして、この習熟と学習容易性に大きく影響するのが、ボタンの組み合わせです。つまり、どのボタンを押せばどの文字を発声するのか、いわば、指の配置と文字との対応関係のことです。いかに効率的、かつ一貫性を持たせ学習しやすくするかが重要なのです。
このことを考慮して、本システムでは、指の配置と文字との対応表、つまり運指符号と文字との対応を記した外部ファイルを用いて符号変換を行うことにしました。符号変換を外部ファイルに依存させることによって、指符号の変更や改良、また個人向けのカスタマイズなどを容易に行うことができます。
本研究では、長松宏樹氏の研究で作成された符号表を基に、本システムに適合させたものを使用しました。長松氏は、その研究で学習の容易さを念頭において符号表を作成しています。