研究の概要

 情報化社会が進む昨今,様々なものがコンピュータ化,ネットワーク化され日常生活になくてはならないものとなってきている.しかし,それと同時にその恩恵を平等に受けられず,格差が広がっていることが問題化している.今回の研究では障害者におけるディジタル・デバイドをなくすため,肢体不自由者が操作した場合のキーボード入力の困難さという点に着目し,どのようなキーボードが使いやすいかを実験によって検証した.
 実験では,腕の可動域が狭く広い範囲でできないという肢体不自由者を想定し,このような障害を模擬した器具を装着した大学生を被験者とした.比較にはキーボードの入力速度を比較するため,試作した計測用タイピングソフトを用いた.比較するキーボードは市販されているものの中から選び,CUT Key VC-101,Half Keyboard,Keiboard+IE,小型ひらがなキーボード,スクリーンキーボードの5種類を使用した.
 実験を行った結果,初期入力には時間がかかったものの,最終的な入力速度が速く,かつ片手で扱う上で大きさ的にも難のないCUT Key VC-101が最も有用性が高いと結論づけた.



研究の背景と目的

 情報化社会が進む中,障害者は一般に普及している機器が使用できないために情報格差が生まれてしまっている.そのために障害者のディジタル・デバイドをなくすという観点から,上肢障害者に焦点を当てた研究を進めた.
 本研究の対象は「腕の可動域が狭く,キーを押す力は弱いが,狭い範囲なら正確に操作することが可能な人」を想定している.例としては筋ジストロフィー患者などが挙げられる.このような人が扱えそうなキーボードを用いて実験を行い比較評価した.



実験方法

 一般論として障害があって使える部位に限りがある場合,残された機能を有効に使うために複雑な操作が要求される.そのため,

  1. 1.頭で複雑な操作の内容を思い浮かべる
  2. 2.思い浮かべた内容を実際に行う

という2段階が必要になる.本研究では前者を思考時間,後者を操作時間と呼ぶ.2つの時間を分けて考えることで学習による時間の短縮を予測し,効率の良いキーボードを考えることにした.

 そのために実験を2つに分けた.実験Aでは単語や文章などを入力することで,思考時間と操作時間を含んだ時間を計測した.それに対し実験Bでは同一動作を繰り返すことで思考時間を短縮し,ほぼ操作時間のみの計測をした.

実験Aのイメージ
実験Aのイメージ

実験Bのイメージ
実験Bのイメージ



 被験者は障害模擬体験用の器具を装着した20代の男女12名とし,5種類のキーボードを用いて実験を行った.試作した評価用タイピングソフトを用いて文字入力速度を測定した.実験回数はそれぞれ3回ずつとし,12名のうち2名についてはさらに実験を行い計10回の計測を行った.

障害模擬体験用の器具
障害模擬体験用の器具


評価用タイピングソフト

評価用タイピングソフト



実験に用いたキーボード

 実験に用いたキーボードは5つである.

CUT Key VC-101

1.CUT Key VC-101

・テンキー型
・子音は複数回同一キーを押すことで入力





Half Keyboard

2.Half Keyboard

・標準キーボードの左半分を切り取ったような形
・スペースキーを押しながら打鍵することで
 標準キーボードの右手側のキーを入力できる
・右手側のキーは写像した形





Keiboard+IE

3.Keiboard+IE

・携帯電話型
・置いた状態と握った状態の2パターンで計測





小型ひらがなキーボード

4.小型ひらがなキーボード

・右から縦に「あ」「い」「う」「え」「お」と 並んでいる五十音順配列






5.スクリーンキーボード

・ディスプレイ上に表示するソフトウェアキーボード
・WindowsXPに標準で備えられているものを使用
・トラックボールで操作

スクリーンキーボード   Trackman





モデル化

 実験後,安定的に特徴を見るために実験結果のモデル化を行った.
モデルに用いた関数は以下である.

モデル化に用いた関数


 この関数を求めるにはa,c,sの値を決定する必要があるため,下記の平均二乗誤差Eが最小になるようにa,c,sを求めた.

平均二乗誤差E


 今回の実験における学習効果は回数を重ねるごとに短縮し,それとともに変化の値も小さくなる単調減少であると考えられる.このモデルは実験回数nの値が増加すればTmodelの値は減少する単調減少であり,最終的にcの値に収束する.
 ここから得られたa,c,Eの値を比較する要素として用いた.これらの値は小さいほど良いキーボードであると言える.

モデル化のイメージ




結論

 モデル化から得られたパラメータより有用性の高いキーボードを決定する.特に収束値であるcに注目すると,

  1. ・CUT Key VC-101
  2. ・Keiboard+IE
  3. ・小型ひらがなキーボード

が有用性の高いキーボードであると言える.ただし,Keiboard+IEは指に制限がある状態では小さすぎるために扱いづらく,また,小型ひらがなキーボードは腕を動かさなければキー操作が難しいため大きいという問題があった.
 故に,テンキー型であり大きさ的にも片手で扱いやすいCUT Key VC-101が最も有用性が高いと結論付けた.

cの比較

cの比較


リンク

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