2010年度
「対話的操作を用いた音声触図作成支援ツール」
情報バリアフリー研究室 杉村 若沙



目次
1.研究の概要
2.研究の背景
3.本ツールの機能
4.本ツール使用の流れ
5.まとめ
6.リンク



1.研究の概要
 

本研究室で研究されている音声触図(以下の図に示す.)は最終的に盲学校へ導入することが目的であるが,音声触図用の教材を作成するにはいくつかの問題があった.それは複数のソフトを用いることや,情報機器の扱いに慣れている人でなければ難しいこと,また一度作成すると再編集が困難であるということである.この問題を解決するために本研究ではWEB画像を必要であれば下絵として表示し,または頭の中にある図をもとに図を描画し,音声情報など音声触図に必要な情報を入力できるツールを試作した.また図や入力した情報を中間データとして保存することで再編集可能にし,他の画像処理によって必要な線を抽出するツールとの連携も可能になった.





2.研究の背景

 
  現在,視覚障害者は全国に約315,000人おり,その中でも18歳未満の視覚障害児は4,900人いるというデータがある.視覚障害者はその度合いにより,拡大鏡,ルーペを使えば文字を視認できる軽度視覚障害者と,それらを用いても文字が視認できない重度視覚障害者に分けられる.また,人間は行動するときの情報を約80%視覚に頼っており,視覚障害者は周囲の人間に比べて得られる情報量は著しく少ない. しかし,視覚障害者は訓練を行うことで文字は点字,図は触図というものを利用することによってその情報を得ることができる.触図とは凸な点や線で書かれた図のことである.


3.本ツール使用の機能
 
本ツールは作業の手順で3つのモードに分けた.

<作成・削除モード>
・線の作成   選択した線の種類と線の太さで線を描画
・円の作成   選択した円の種類と半径と円周の太さで円を描画
・形状の変更   線と円の形状を変更
・削除   線と円を削除

<図編集モード>
・線の分割   1本の線を2本の線に分割
・線の結合   2本の線を1本の線に結合
・線の移動   線を移動
・点の追加   線に点を追加
・点の削除   点を削除
・点の同一化   2点を同じ位置に移動
・点,円の移動   点または円を移動

<領域編集モード>
・線または円を選択し音声情報などを登録
・領域は後から情報の変更または削除可能

<3つのモード共通で利用できる機能>
・下絵となる画像選択
・下絵の表示・非表示
・編集中のデータを保存
・選択したファイルの読み込み
・モードの切り替え
・2倍・4倍の大きさに拡大



4. 本ツール利用の流れ

  ここでは本ツールの処理の流れと利用の流れの一例を示す.

<処理の流れ>





<利用の流れの一例>

(1) 初めに画像をWEBから取得し,ペイントツール等でキャンバスに全体が表示されるようにサイズと向きを変更する.そして,本ツールを起動させ,下絵を選択し,表示ボタンで表示させ,作成・削除モードで図を描いていく.このとき以下の図の赤丸で示すように線と線が重ならないように注意し線が途中で2つ以上に分かれる箇所は点を作成し,なるべく少な目の線で図を作成すると後の同一化の作業が楽になる.



(2) 次は図編集モードで線を分割と点の同一化を行う.(1)で線が途中で2つ以上に分かれる箇所に点を作ってあるのでそこで線を分割する.同一化は線の始点と終点が水色の点で示されるのでその点をつなげれば良い.以下の図の青丸で囲まれたようになっていれば領域化でき,赤丸で囲まれた部分のように水色の点が1つに見えない場合は領域化できないので点の同一化を行う.



(3) 音声を割り当てたい領域を構成している線を選択し音声情報などを登録する.全ての市町村に第1音声を与えた後,作成・削除モードで市町村境を選択し線の形状を点線に変更する.




ここまで要した時間は35分であり,従来の音声触図作成法に比べ時間を短縮することができる.



5.まとめ

 

 現場で音声触図を簡単に作成できることが盲学校での教育に極めて重要だと考えたため,音声触図を作成するツールの試作を行った.本研究で試作したツールを用いることでWEB画像や頭の中にある図を中間データまで作成することができる.
 初めにWEB画像などを必要であれば下絵として表示し,作成・削除モードの線の描画機能等を用いて図を描画する.線と円は線の太さ,点線や実線,黒丸や白抜き丸の種類,半径などを変更して利用しやすい図を作成できる.図編集モードで図を領域化できるように調節し,領域編集モードで領域化する線や円を選択し,音声情報や,図に文字を表示するかなど領域に必要な情報を入力する.これまで一度作成した音声触図が実質的に再編集不可能であったが,保存を行えば編集中のデータが中間データとして保存され再編集可能となった.
 実際に試作したツールを用いて滋賀県の市町村図を作成したところ,35分で完成させることができ,以上のことから本研究によって音声触図の作成を容易にし,かつ短時間で作成することが可能となった.



6.リンク
 

立命館大学
立命館大学 情報理工学部
情報バリアフリー研究室 (教員)