2010年度卒業研究
画像処理を用いた文字入力ツールの試作
情報バリアフリー研究室 新宮 香耶子


1.実験の概要

 本研究では,障害を持ち通常のキーボードを使用して文字入力ができない人のため腕の動きのみで文字入力を行うことができるシステムを試作、評価をすることを目的とする.様々な利用環境・利用状況に適した文字入力ツールを選択できるように,今回は3種類の文字入力ツールを試作し評価を行った. このアプリケーションはUSBカメラで指に装着した赤色と緑色の2色のマーカの動きを検出し,画像処理を行うことで文字入力ツールを操作し文字入力を行うことができる.赤色マーカの左右の自由度2,緑色マーカの上下左右の自由度4で操作することができ,上肢などに障害があり指や手の動きが制限されている場合でも少ない動きで操作が可能となっている.文字入力ツールはテキストボックスと文字入力ボタンが一体となっており,入力したい文字ボタン上にフォーカスを当てて緑のマーカを左に動かすことで決定しテキストボックスに文字を送るというものである.
 更に,各種の文字入力ツールの有用性,優劣を検証するため比較評価実験を行った.評価としては,細かい動作が必要となり,光などの環境によってマーカの認識が不安定なることが確認できた.しかし押下する動作が不要で上下左右の指の動きのみで操作が可能でUSBカメラで動きを検出するため布団の上などの不安定な面上でも操作し文字入力できることがわかった.

2.研究の背景

 厚生労働省の調査結果(平成18年度調査)では,肢体不自由者(上肢・下肢を含む)のうち16.6%がパソコンを利用するとこたえており,68.8%が利用しないと答えている.障害者にとって使いやすいパソコンがあれば更に利用率を向上できる可能性がある.  障害者におけるパソコン利用は,障害別の入出力装置が必要にはなるが,それさえ考慮すれば社会参加へのツールに成り得る.例えばインターネットを利用することや文書作成をすることで,より行動範囲の拡大ができ,迅速な情報共有・発信が可能になる.全身麻痺などの障害を持つ人にとっては情報収集・情報発信を含め社会との重要な架け橋となり得るし,上肢に障害があり文字を書くといった動作ができない人にとっては筆記の代わりになり得る.「文字が書けない」ということは就学・就労などによっても不利になるが,「文字を入力できる」となると就学・就労において健常者との差を埋めることができる.本研究で試作したアプリケーションはこのような支援に役立つ可能性があると考えられる.

3.文字入力ツールについて

アプリケーションは画像処理部と文字入力部の2つから構成されている.


<画像処理部>

 文字入力ツールの画像処理部には以下の機能、表示部がある.
・ 撮影映像表示部
・ ビデオキャプチャ映像表示部
・ 緑マーカ各領域の役割表示
・ 赤マーカ各領域の役割表示
・ 各文字入力ツール起動ボタン
・ アプリケーション開始・停止ボタン
・ 領域再設定ボタン
 撮影映像表示部ではUSBカメラで撮影しているリアルタイムの映像を表示しており,キャプチャ映像表示部ではUSBカメラで撮影している映像に画像処理を行った映像を表示している.キャプチャ映像表示部ではマーカを認識すると緑マーカの場合は中心部と上下左右の計5つの領域を表示し,赤マーカの場合は中心部と左右計3つの領域を表示する.この領域は目安であって,この領域をはみ出してもポインタは上下左右それぞれに移動する.緑マーカ各領域の役割表示部,赤マーカ各領域の役割表示部はユーザに各領域にマーカが入った場合どのようなイベントが起きるかをわかるように表示している.たとえば緑マーカが左の領域に入った場合は決定のイベントが起きる.マーカの各領域は開始ボタンを押下すると決定するため以後変更をする場合,領域再設定ボタンで各領域を設定しなおすことができる.各文字入力ツールボタンはそれぞれの文字入力ツールを起動するためのボタンである.
<文字入力部>

 文字入力部では赤色のマーカを付けた指を右に移動するとフォーカスが右のボタンへ,左へ移動すると左のボタンへ,緑色のマーカを付けた指を下に移動するとフォーカスが下のボタンへ,上に移動すると上のボタンへそれぞれ移動する.緑色のマーカを左に動かすことで決定操作が行われ,文字ボタンにフォーカスを当てて決定操作をした場合はテキストボックスに文字を送る(図3-5参照).文字ボタン以外にもEnter,Back Space,Del,Esc,変換ボタンなど操作ボタンが備わっており,それらの操作ボタンにフォーカスを当てて決定操作をした場合はそれぞれのイベントが発生する.右にマーカを移動しキーボード終了の領域に入れることで各種キーボードを終了することができる.また,小文字,カタカナ,英数字切り替え機能が備わっている.
<全表示文字入力ツール>

<一列表示文字入力ツール>

<四方向表示文字入力ツール>

4.評価実験

今回は客観的評価として1人の被験者に対し3種類すべての文字入力ツールを使用してサンプル単語群を入力してもらい,それぞれの文字入力に要した時間を測定する.また,主観的評価としてそれぞれの入力ツールを使用しての感想,使いやすい文字入力ツールを順位付けしてもらい,どの文字入力ツールがユーザにとって使いやすく・早く入力することができるかを評価する.

<平均入力時間>
各文字入力ツールを使用し単語入力した平均時間を以下のグラフに示す.


<使いやすさの平均>
用した入力機器についてのアンケートを実施した.アンケート内容は,使用した文字入力ツール3種類について,使いやすさの順位をつけてもらうもので,アンケート結果を比較するため,1〜3位に3~1点をつけ平均点を導いた.  下の図に平均点数を表す.一列表示文字入力ツールの評価がもっとも高く,つづいて四方向表示文字入力ツール,全表示文字入力ツールとなった.


5.結論

実際に使用して評価してもらった結果,疑似体験ではあるが半身麻痺の被験者に対しては評価としては,良好なものであると考えられる.ただし,細かい動きが要されるため,腕や指を正確に動かせない人には困難であることがわかった.また光加減などでマーカが認識されない場合などはあるが,USBカメラでマーカの動きを撮影し動きを決定するため不安定な場所に腕やパソコンがある場合でも環境に左右されずに使用できることがわかった. このことからアプリケーションの対象者は限定されてくるが機能としては有用性があると感じた. 本研究ではリアルタイムで挙動を検知し少しの動作での入力を可能とする.ボタン押下せずに指の動きだけで操作するデバイスとして研究としても障害者にとっても新しいものになったと思う.

6.リンク

立命館大学
情報バリアフリー研究室