2011年度卒業論文

音声触図教材作成ツールの試作と音声触図教材の作成


情報バリアフリー研究室 高吉 大介





1.概要

 視覚障害者は触図と呼ばれる線や面,点が浮き上がった特殊な紙を使用し必要な情報を得ている.しかし触図は文字情報を点字で記載しており,点字を解読できる視覚障害者しか利用できないという問題がある.この現状に対し五島幸訓氏は触図にタッチパネルと音声案内を組み合わせることで,点字を解読できない視覚障害者でも触図からの情報を得られるシステムを構築した.そのシステムは本研究室で毎年改良が加えられたが,多くの手間や労力を必要とするなどまだまだ改良の余地のあるシステムであった.  本研究では,従来作成されてきた音声案内機能付き触図を作成するためのツールを改良し,より簡単により高速に音声触図を作成できるツールを試作した.またそのツールを使用し,経絡経穴を学習する視覚障害者のための教材を作成した.これら経絡経穴教材は,以前からニーズのあった按摩師,針灸師を目指して学習する視覚障害者のための教材である.これらの教材は,視覚障害者が学習するにあたって最低限の情報を網羅しており,各部位の名称や取り方,国際標準記号等を学習できる機能を有している.さらにこれらの教材は盲学校に試験導入されており,複数回の訪問を経てより良い教材になるよう改良を加えてきた.この教材により,視覚障害者が経絡経穴をより効率よく学習できるようになった. またすでに導入されている「日本地図」の教材や今回作成した「経絡経穴」の教材は1つのシリーズになっており,シリーズ内で触図データを切り替えるための設定を行う「触図データ切り替え登録ツール」も作成した.このツールにより触図データの切り替えや触図間の対応関係がユーザにも分かりやすくなり,教材が1つのシリーズとして学習しやすい構成となった.




2.音声触図システムの概要

音声触図システムの概要と仕組み

 音声触図システムとは,触図をタッチパネルに乗せ,指で触れることで形を把握し,さらに任意の箇所を強押することで,押した箇所の詳細情報が音声案内されるシステムである.音声案内することで,従来の触図だけの学習に比べ,触図の部位に対応した略記解説表の点字を読むという手間が省け,学習効率が大幅に上がる.  本研究室では2006年から「音声触図システム」に関する研究を続けており,実際に盲学校の教育現場に試験導入を行い,理解の速度があがることを確認している.音声触図システムの外観の写真を図2.1に,音声触図システムの案内イメージを図2.2にそれぞれ示す.


図2.1 音声触図システムの外観



図2.2 音声触図システムの案内イメージ


図2.2に示すように,PC上の音声触図システム専用ブラウザ(以下,専用ブラウザと呼ぶ)が表示する案内用データに,音声領域が設定されている.タッチパネル上の任意の点をシステム使用者が強押すると,専用ブラウザ上の対応する座標がクリックされたことになり,音声領域に設定されたテキストを音声案内ソフト「PC-Talker」が読み上げるという仕組みになっている.


音声設定

 音声触図システムでは,音声データをHTMLファイルで作成する.HTMLファイルでは画像ファイルを呼び出してWEBブラウザで表示することができ,さらに画像上の座標を指定することで領域を作成することもできる.ここで領域とは,指定した座標を頂点とする多角形のことであり,その領域内をクリックした際の動作を指定できるものである.領域のイメージを図2.3に示す.


図2.3 領域のイメージ


また音声触図データ使用の場面では,触図をタッチパネルに乗せて任意の箇所をクリックすることでその座標をPCに座標を送る.座標を受け取ったPCは受信した座標にマウスカーソルを移動させ,クリック動作を行う.そこに音声領域があれば,領域に割りあてた文字列をPC-Talkerに読み上げさせる.領域を模式的に階層化したものを図2.4に示す.


図2.4 領域を模式的に階層化した図


さらに本研究で作成,使用する音声触図は,タッチの回数ごとに発声されるテキストを切り替えることができる.作成した音声触図には,3パターンの音声が出力できるよう設定した(以下3段階音声と呼ぶ).これは,盲学校での理療科教育支援のための,経絡経穴教材に音声として設定する情報量があまりに多く,一括で音声案内してしまうと利用者にはかえってうるさくなることがあるためである.そこで作成した経絡経穴教材には,1タッチ目に部位の名称,2タッチ目に部位の取り方,3タッチ目に国際標準記号といった情報を設定した. 図2.5に3段階音声のイメージ図を示す.


図2.5 3段階音声のイメージ図



インデックス部による音声触図データ切り替え

 触図データ切り替えは,インデックス部により行う.触図データの右側にインデックス部を設け,インデックス部のボタンを押すことで触図データの切り替えや現在の触図が何の図かといった現在の状態を確認することができる.また,どのボタンでどの触図に切り替わるかの設定を「触図データ切り替え登録ツール」によって行うことができる.インデックス部を搭載した触図の例を図2.6に示す.


図2.6 インデックス部を搭載した触図の例


@現在の触図データの状態確認 A1つ上のシリーズのトップに移動 Bシリーズ内で1つ進む Cシリーズ内で1つ戻る D同輪郭異種情報への切り替え
E現在のデータの登録番号および切り替えたい触図へのダイレクトアクセス 最左列:シリーズの番号 左から2列目:シリーズ内の通し番号 右2列:同輪郭 F決定ボタン



3.作成したツール

音声触図教材作成のためのツール

 従来作成されてきた音声案内機能付き触図を作成するためのツールを改良し,より簡単により高速に音声触図を作成できるツールを試作した.試作したツールでは従来ツールではできなかった,「ワンクリック閉領域割り当て」機能や「3段階音声の設定」機能を搭載しており,より高速により簡単に音声触図教材を作成することが可能となった.ツールの実行画面を図3.1に示す.


図3.1 音声触図教材作成ツールの実行画面



触図データ切り替え登録ツール

「触図データ切り替え登録ツール」は音声触図データに登録番号を設定し,登録番号によって触図データを切り替えることができるように設定するためのツールである.登録番号は4桁で設定し,1000の位はシリーズ,100の位はカテゴリ,10の位・1の位は2桁でカテゴリ内の通し番号を保持している.ここでシリーズおよびカテゴリの定義付けを示す図を日本地図の例を用いて図3.2に示す.


図3.2 シリーズおよびカテゴリの定義


本ツールではまず登録番号を設定したい触図データ(html形式)を読み込む.次に読み込んだ触図データを既存のシリーズ内に登録したい場合は「シリーズ」より選択する.また新たにシリーズを作成し登録したい場合は,作成したいシリーズ名をテキストボックス内に入力し「シリーズ追加ボタン」を押す.「カテゴリ」についても同様に,既存のカテゴリ内に登録したい場合は「カテゴリ」より選択し,新たに作成する場合はカテゴリ名を入力し「カテゴリ追加ボタン」を押す.さらに「通し番号」内で登録したい,通し番号を選択する.最後に,表示されている登録番号を確認し,その番号で登録する場合は「登録ボタン」を押すことで設定が完了となる.触図データ切り替え登録ツールの実行画面を図3.3に示す.


図3.3 触図データ切り替え登録ツールの実行画面



4.まとめ

 本研究室では,点字を解読できない視覚障害者でも触図からの情報を得られるシステムを構築し毎年改良を加えてきた.しかし,そのシステムによる音声触図作成は多くの手間や労力を必要としまだまだ改良が必要であった. そこで本研究では,より簡単に高速に音声触図が作成できるよう作成ツールの改良を行った.またそのツールを用いて,按摩師・針灸師を目指して学習する視覚障害者のために経絡経穴の音声触図教材を作成した.この教材は滋賀県立盲学校に導入し,複数回の訪問を経てより学習しやすい教材となるよう改良を加えてきた.また,以前本研究室より導入された「日本地図」教材も含め,教材が一つのシリーズとして構成できるよう「触図データ切り替え登録ツール」の試作も行った.このツールにより音声触図教材がシリーズ化され,教材としてより利用者が学習しやすい構成となった.  今後の展望としては,今回作成した経絡経穴教材が視覚障害者の学習支援となることである.また,盲学校で作成された音声触図教材が「触図データ切り替え登録ツール」によって学習しやすい1つのシリーズとなることで,視覚障害者の学習支援となることである.





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