画像処理を用いた音声情報付き触図作成支援ツールの試作


目次
1,視覚障害者の現状
2,研究の概要
3,本研究で試作したツール
4,まとめ
5,リンク



1,視覚障害者の現状

 内閣府の調査によると,日本には平成18年度現在における視覚障害者の人口は約31万人であるとされている.そのうちの18.5%が先天性の視覚障害者であり,残りの81.5%が中途失明者である.この調査からわかるように,先天性の視覚障害は比較的少ない. 一方,中途失明者は緑内障や糖尿病,交通事故などが原因となり毎年約3000人増加している.特に糖尿病については合併症のひとつである糖尿病網膜症が中途失明者の最も多い原因である.
点字を読むことができるのは20%程度にとどまっている.これには中途失明者の割合が高いことが起因していると考えられる.生まれたとき,または乳幼児のときに失明した先天性の視覚障害者は,盲学校等で点字を学習する機会も多く,比較的習得しやすい.一方,中途失明者にとって,点字の習得は非常に困難である.また,高齢者の場合は指先の感度が悪いため,解読そのものが困難な場合がある.このような理由から,点字の習得に挫折してしまうことが多い.また,そもそも点字に必要性を感じないという人も少なくない.



2,研究の概要


  従来の触図の問題点を解決するために,2008年立命館大学理工学研究科情報理工学専攻を修了した五島幸訓氏は音声情報出力機能付き触図システム(以下音声情報付き触図という)を考案,開発した.音声情報付き触図とは,パソコンに接続されたタッチパネルに触図を設置し,任意の箇所を押すことでその箇所に登録された音声情報を出力するシステムである.これにより,点字を記載する必要がなくなり,一枚の触図に従来よりも圧倒的に多くの情報を載せることが可能となった.さらに,文字情報を得るためには知りたい箇所のタッチパネルを押すだけで良いため,煩雑な読解作業を必要としなくなった.さらに,IVEOに比べ非常に安価に実現することができる.
 従来の音声情報付き触図には2つの問題点が存在する. 1つ目の問題点は,図データの作成をすべて手作業で行わなければならないため,作成に時間と労力がかかってしまうことである.2つ目の問題点は,音声データの編集である.音声データを作成するには,画像の座標を指定してその座標を頂点とした多角形を音声領域として設定している. そのため,触図全体の拡大や縮小などの編集を行うと画像全体は編集されるが,座標で指定している領域には編集が反映されないため,音声情報付き触図としてなりたたなくなってしまうという問題がある.
 これらの問題を解決するためには,触図にしたい画像から速やかに触図専用の画像へ変換する専用の支援ツールが必要であると考えた.触図にする画像がある場合は,それを自動的に図面に起こすのが有効であるが,触図では細すぎる線などの複雑な情報は視覚障害者用には不要であるため,実際の画像よりも大まかなものが適している.しかしその画像の特徴となる点である,屈曲点や分岐点などの最低限の情報は保つべきである.そこで,画像データの中から触図作成に必要な特徴点や線分を自動抽出するツールを試作した.




3,本研究で試作したツール


表1 特徴点の分類



まず,画像中の特徴点を抽出する.本研究での特徴点はアークの開始点と終了点を決定づけるために必要である.
特徴点とは端点,屈曲点,分岐点の3つの種類があり,これらは注目画素に対する周りの画素である8近傍の画素をみることで分類することができる.

図1 クリエーション・コア5F:デジタル図書館研究室付近

上に示すクリエーション・コア5F:デジタル図書館研究室付近の図は、二値化・細線化処理を施した図に分岐点,端点、屈曲点を抽出した図である.


図2 図1をアークごとに抽出した図


 アークは両端が分岐点からなる線分と片端が分岐点,もう片端が端点である線分,両端が端点である線分からなる.
クリエーション・コア5Fのデジタル図書館研究室は、上に示す図のようにアーク1からアーク4で構成される.このアーク1からアーク4に囲まれた部分を領域として定義することができる。
アークを利用することで、今までは座標を用いて行っていた音声領域の指定が領域範囲と触図部を連結させて作成,編集が可能となる。
 図3は音声情報触図作成支援ツールの全容である.

図3 音声情報触図作成支援ツール





4,まとめ

 本研究では、1クリックで画像処理を行い,電子化データからアークを抽出するために,アークを構成する3種類の特徴点である分岐点,端点,屈曲点を定義した.これらの特徴点から構成されるアークの情報を抽出することで,音声領域と触図用図データを,座標を用いて編集することができるようになった.  本研究では,電子化データからアークを抽出するために,アークを構成する3種類の特徴点である分岐点,端点,屈曲点を定義した.これらの特徴点から構成されるアークの情報を抽出することで,音声領域と触図用図データを,座標を用いて編集することができるようになった. 以上のように,本研究によって,従来の触図の作成を効率的かつ容易にし,触図作成のための労力を大幅に削減することが可能となった.



5,リンク

●立命館大学

●立命館大学 情報理工学部

●2009年度 卒業論文 「音声触図を用いた盲学校理療科教育の支援システムの試作」 山本 健介氏