研究の概要

 現在出回っている駅構内の地図の多くは、初めて訪れる人にとって有用な地図ではない。 多くの地図は1枚の平面地図に、複数の階層を表したり、駅のトイレ、エレベータ、切符売り場などといった施設情報のマークを載せているため、高齢者だけでなく、私たちから見ても非常に見にくい。 車イス利用者や、足の不自由な人といった下肢障害者と健常者とでは、駅構内でのルートが大きく異なる場合があり、下肢障害者が大きく道を迂回する場合が必要なときがある。 そのような地図で下肢障害者が通れるルートを見つけるのはより困難である
 
 
 京都駅の地図も同じような現状であり、これを解決するために、京都駅構内バリアフリーマップを開発した。 京都駅構内バリアフリーマップとはCGで作成した3Dの京都駅の地図上に、ユーザの障害の程度にあったルートを表示する経路案内システムである。
利点として以下2点があげられる
・CGで京都駅を作ることにより、地図が立体化され、平面の地図で影になり表示できなかった箇所を表示できたり、階層の把握が楽になる
・下肢障害者の場合、ルートが大幅に変わり、複雑になっても、経路案内システムにより自身でルートを考えなくてすむ


 また、本システムの特徴として経路案内には2種類の方法がある。1つめは従来通りの出発地から目的地までを入力し、その間のルートを表示する方法で、2つめは、目的地をカテゴリ検索する方法で、目的地を特定の場所とせず、トイレや売店といった複数の箇所が存在する施設名を目的地とし、出発点から選択した施設名内で一番近い地点までのルートを表示する方法である。 例えば、カテゴリ検索で目的地をトイレとした場合に、出発地から全てのトイレの中から最寄のトイレまでのルートを表示する。


システムの概要

 本システムは以下の4つのパートから成っている。


{入力部}

 入力部では、経路案内と地図の操作に関する入力を行える。以下に入力画面と入力画面での操作を示す。

経路案内に関する操作

・出発点、目的地の選択肢がプルダウン形式で表示され、その中から選択し、経路案内のボタンをクリックするとルートが表示される。
・目的地をカテゴリ検索の中から選択し、カテゴリ検索をクリックすると、出発点から最寄の施設までのルートを案内できる。
・階段の利用のチェックボックスのチェックの有無により、階段、エスカレータを利用にしないルートを案内する。

地図の操作

・階層別表示のチェックボックスのチェックの有無により、階層を表示する。
・リセットボタンをクリックすることで、ルートを全て消去、視点の位置の初期化を行う。


{データベース参照部}

 データベースの参照とは、あらかじめ決められたノードとリンクをローディングしていくものである。ノードの設定箇所は、出発点と目的地の候補になる地点、道の分岐点、階段とエスカレータの両端、エレベータの止まる地点エレベータの手前の地点である。また、曲がり角において内回りや外回りを考慮せず、道の真ん中を通ると仮定し、ノードを設定した。リンクとはノード間の繋がりと重みであり、重みとはノード間の実距離の測定値を用い、出発点から目的地までの重みの和が最小のルートが最短経路となり、ルートが決定される。ノード間でリンクがないということは、直接的にその二つの地点が繋がっていないことである。結果、本システムでは、200個のノードと240個のリンクが設定されている。
 重みを設定するために実際の京都駅でカウントメジャーを用いて距離を測った。通路は測定した値を重みとし、階段は段数と一つの段の長さのかけ算に階段の途中の踊り場と階段の両端のノードから最初の段までの距離の和を階段の重みとした。高さは考慮しておらず、階段を横から見たときの水平距離と重みは同じであり、地図を参考にして水平距離の値を決定した。エスカレータも同様に高さを考慮せずに、エスカレータを横から見たときの水平距離を重みとして設定した。エレベータも高さを考慮せず、エレベータは上下間の動きのみなので重みを0とした。改札は重みを十分に大きな値(ここでは10000)とした。目的地によっては改札内に入り別の改札口から出るルートの方が距離が短くなることがあり、そのルートが出力される。わざわざ入場券を買わないといけないので、これ防ぐために重みを大きくし、改札を2回通るより、遠回りするルートが選択されるようにした。


{最短経路の算出部}

 参照したデータベースにダイクストラ法を用いて、ルートを決定する。ダイクストラ法はエズガー・ダイクストラが考案した最短経路問題を効率的に解くグラフ理論におけるアルゴリズムである。スタートノードからゴールノードまでの最短距離とその経路を求めることができる。出発点から目的地への最短経路を求める過程で、出発点から他の全ての頂点への最短経路が求まるという特徴があり、それぞれのルートを保存することができる。


{出力部}

 出力部では、最短経路の算出部で選択されたルートを元に、地図上にルートを表示し、入力画面の下枠の中に、ルートに関する地図からは読み取りくい箇所の補足説明文を出力する。  また、本システムでは地図をCGで作成したことにより、地図をマウス操作により、動かすことにより、自分の見たい視点から見ることができる。 下図が京都駅の地図になり、プログラム実行時に表示される初期図になる。



 以下の入力条件の場合の出力例を示す
・経路案内
・出発地:JR中央改札口(外)
・目的地:近鉄改札口
・階層別表示:1F、M2、2Fを表示
・階段の利用:利用できる

      





まとめ

 本研究では、京都駅の経路案内システムを試作した。CGで京都駅を作ることにより、京都駅自体を動かすことで色々な角度から見ることができ、地図の見易さや理解度の向上、京都駅を知らない人にとっても有用性のあるシステムを目指した。実際に本システムを作成し、京都駅の階層別表示、京都駅自体の回転、拡大、縮小を実現することで、上の階層の影になって下の階層が見えないという問題点を解決したり、京都駅全体を表示したり、拡大してルートの付近を表示したりと、既存の地図と比べ、階層の位置関係が把握しやすくなり、既存の地図より見易い地図が完成した。 また、出発点と目的地の入力から、CGの京都駅上にそのルートを表示することができる経路案内システムも実装した。ルートの表示の際、ルートの説明文を加えることで、地図からは読み取れない情報を付加することでき、ユーザの理解度は向上したと思う。
 現段階ではパソコンでしかこのシステムは実行できない。ホームページ上で本システムを携帯端末でインストールし、実際の京都駅で実行することで有用性は高まると考える。初めて京都駅を訪れた人が急にトイレに行きたくなったときに、一番近いトイレを案内できるように、カテゴリ検索は試作した。しかし、家のパソコンで利用している限りそうような事態にならないので、カテゴリ検索は利用されない。フリーソフトとして、iアプリのツールキットや、iアプリの作成に関する書籍も多数発行されており、実現に向けての環境は整えられる。携帯端末で利用できれば本システムの有用性は高まるだろう。


情報バリアフリー研究室