『音声情報付きフローチャートの作成ツール』 萬ヶ谷 博規


目次

  ●概要
  ●視覚障害者にフローチャートを伝える
  ●点字の代わりに音声で伝える
  ●試作した音声情報付きフローチャートの作成ツール
  ●まとめ
  ●リンク



概要

 視覚障害者も支援機器を使用することによって情報処理技術者として就労することができるが、フローチャートやブロック図といった図面情報は視覚障害者に伝えづらいという問題がある。しかし、フローチャートの図面情報を伝える際、記号だけを触図で表し、その処理内容は音声出力で案内することが有効であることが分かった。
 そこで、本研究では、"音声出力機能付き触図システム"に用いるフローチャートの触図やその音声情報データを一度に作成できる、"音声情報付きフローチャート作成ツール"を構築した。
 これによって、視覚障害者にフローチャートを伝えやすくなった。また、晴眼者と視覚障害者が同じレイアウトのフローチャートを理解することができ、情報を共有・確認するといったことが可能となった。



視覚障害者にフローチャートを伝える

 文章などの文字情報であれば、口頭や合成音声ソフトに読み上げてもらうことで視覚障害者にも伝えることができる。しかし、フローチャートなどの図面情報はその性質上、文字情報のように伝えることができない。

 フローチャートを伝える方法として、手で触って記号の形を理解できるようにした触図に処理内容を点字で記したものがある。しかし、点字を読める人は重度視覚障害者の場合2割程度しかいない。また、点字の性質上どうしても全体的にフローチャートが大きくなってしまう。

 そこで、点字ではなく音声で各処理内容伝えることで、これらの問題を解決することにした。







点字の代わりに音声で伝える

 フローチャートの各記号の処理の内容を音声で伝える手段として五島幸訓氏の"音声出力機能付き触図システム"を用いた。
 これは、システム用に作成した触図をタッチパネルに貼り付け、知りたい部分を押すと、そこに対応する音声が出力されるというシステムである。





 このシステムを中途失明者でネットワーク管理者をやっている方に試してもらったところ、一つの処理記号の大きさが8mm×16mmで記されているフローチャートを読み取ることができた。


 この大きさは教科書などで小さめに書かれているフローチャートの処理記号の大きさである。
 従って、目が普通に見える晴眼者用のフローチャートとほぼ同じ大きさで視覚障害者用のフローチャートを作ることができるということである。



 なお、試してもらった触図はカプセルペーパーを使用して作成したものである。カプセルペーパーとは、立体コピー機(ケージーエス株式会社のP.i.a.fを使用)と呼ばれる専用の機械に通すことで、黒インクで印刷された部分が発泡し浮き出るという特殊な用紙である。なお、黒以外の色で印刷された部分は浮き出ない。







試作した音声情報付きフローチャートの作成ツール

 晴眼者用のフローチャートとほぼ同じ大きさで視覚障害者用のフローチャートを作ることができるということがわかったが、晴眼者用に作られたものをそのままの形で触図にしたものでは、うまく読み取れないものがある。例えば、長方形と平行四辺形などは形状が似ているため小さいと判別しづらい。そこで、触図にする場合は平行四辺形の鈍角の外側である左上と右下に特徴となる"しるし"を付けることによって判別しやすくする必要がある。しかし、既存のフローチャート作成ツールでは、このような記号のフローチャートは描きにくい。




 また、フローチャートを作成した後、それに合わせた音声情報データを作成しなければならず、非常に手間が掛かる。
 そこで、視覚障害者用のフローチャートの作成に特化した“音声情報付きフローチャートの作成ツール”を試作した。


試作したツールは


  • 触図と同時に"音声出力機能付き触図システム"で使う音声情報データを作成
  • マウス操作で作成する既存の作成ツールと似た操作性
  • 視覚障害者用(カプセルペーパー)と晴眼者用(普通紙)を同時に出力可能で、別々に作る手間が無く、"しるし"の有無の違いなどはあるが同じレイアウトで出力されるので情報を共有することが可能

○操作性





○出力例(クリックすると写真が大きくなります)






まとめ

 "音声出力機能付き触図システム"で使用するフローチャートの触図やその音声情報データを一度に作成できる、"音声情報付きフローチャート作成ツール"を構築した。
 これによって視覚障害者が理解しやすいフローチャートを簡単に作成できるようになった。

 ただし、現段階ではフローチャートのみであり、クラス図などにも対応していく必要がある。また、既存の作成ツールに比べて操作性の劣る部分があるため改良が必要である。



リンク

  ●立命館大学
  
  ●情報バリアフリー研究室
  
  ●五島幸訓:視覚障害者のための音声出力図
  
  ●ケージーエス株式会社