2008年度 卒業論文   奥野 貴行  『視覚障害者のための音声出力機能付き触図システムの改良』



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研究概要
ベースシステムについて
システムの改良
まとめ
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研究概要

 近年,事故や糖尿病網膜症が原因による中途視覚障害者が増加している.視覚障害者が文字情報を得るために点字があるが,中途視覚障害者の中でこれを触読できるのはごく一部である.そのため,視覚障害者用の図である触図も,点字が触読できないために利用できない場合が多い.

 この現状に対し五島幸訓氏は,音声案内やタッチパネルを触図と合わせて用いることで,点字が読めない視覚障害者でも利用できる触図システム(以降ベースシステムと呼ぶ)を構築した.ベースシステムは中途視覚障害者1名から有用なものであるという評価を得ていたが,視覚障害者が分かりやすい触図の表現方法を調べる必要があることや,タッチパネルに触図を固定する方法がないといった課題を残していた.

 これらはシステムを利用する上で大きな問題点となるため,本研究ではベースシステムを引き継ぎ,触図やタッチパネルの改良により各問題を解決した.改良したシステムは視覚障害者に評価してもらい,必要な箇所を再度改良を加えることで視覚障害者向けのシステムとしての利便性を向上させた.

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ベースシステムについて

 五島氏が構築したベースシステムは,滋賀県の都市地図,鉄道地図,地形図の触図(点図)に対して音声案内が用意されている.触図をタッチパネルに乗せて任意の箇所を押すと,押した箇所の内容を音声で案内する.



 また,システムの音声案内の流れは下図のようになる.


 
 音声案内の切り替えにはQRコードまたはテンキーを用いる.

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システムの改良


 ベースシステムは視覚障害者向けのシステムとして,その利便性を向上させるために

1.視覚障害者が分かりやすい触図の作成
2.触図の固定方法の確立
3.専用ツールの整備


などの課題が残っている.本研究では視覚障害者の意見を参考にこれらの点に改良を加えた.



1.視覚障害者が分かりやすい触図の作成

 視覚障害者にとってより分かりやすい触図にするために下記のような改良を加えた滋賀県の都市地図,鉄道地図の触図を作成した.
  • 小さな市町村など,細かな部分も触読しやすいように触図のサイズを拡大
  • 全体的に線を細くして,触読に最低限必要な太さに設定
  • 琵琶湖は塗りつぶしで表現し,周囲と区別
  • 鉄道地図で,主要駅は中抜きの丸印で表現
  • 鉄道地図で,主要駅以外の駅は小さな黒いマークを入れて表現



2.触図の固定方法の確立

 ベースシステムでは触図をタッチパネルに固定する方法がないため,使用中に触図が動いてしまって正常に音声案内が行えないことがある.
 これに対処するためにアクリル板やマグネットを加工して固定具を試作した.触図の固定は

 1.ガイドに沿って触図をセット
 2.フレームで触図を挟みこむ
 3.触図を固定

 
という手順になる.





     
3.専用ツールの整備

 ベースシステムでは音声案内用の専用ツールとして,五島氏が作成した専用ブラウザを用いる.専用ブラウザでは音声案内の切り替えにQRコードを用いる場合,Tabキー入力後にQRコードを読み込むという手順をとる.



 しかし,実際に視覚障害者にこの方法で音声切り替えを試してもらったところ下記のような問題点が挙がった.

 1.Tabキーを誤って複数回押してしまってQRコードが読み込めない状態になる
 2.視覚障害者にTabキーの場所を知らせることが難しい


 これらの問題を解決するためにはより簡単なプロセスでQRコードを読み込めようにする必要があった.

 よって,ベースシステムで使用するテンキーを用いてQRコードが読み込めるようにするため、新たに音声案内モード,触図切り替えモードを実装した専用ブラウザを試作した.各モードの詳細は下記の通りである.
  • 音声案内モード   :従来どおり,触図の音声案内を行う
  • 触図切り替えモード :触図を切り替える専用のモードで触図の音声案内は行えない.
 各モードはテンキーに配置したモード切り替えキーを押すことで切り替えが可能で,モード切替キーには他のキーと質感が異なるシートを配置し,位置が分かりやすいようにしている.テンキーは一般のキーボードに比べてキーの数も少なく、このような細工だけでもキーの位置を案内しやすい.


 触図切り替えモードに切り替えると,Tabキーを入力しなくても自動でQRコードが読み込み可能な状態になるため,従来のブラウザに比べて簡単に音声案内の切り替えが行える.

 なお,触図切り替えモードの状態でQRコードの読み込み,またはモード切替キーを押すと,音声案内モードに戻る.

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まとめ

 五島氏が構築した「点字が読めない視覚障害者でも使用できる音声出力機能付き触図システム」は,システムの有用性に対して評価を得ていたが,システムの機能を十分に活かすためには,より分かりやすい触図の作成,タッチパネルに触図を固定する方法がないといった課題を残していた.

 本研究では上記の課題に対し,視覚障害者の意見を取り入れた改良を行うことで各問題を解決した.触図はより分かりやすい表現の触図になるように工夫し,固定方法は視覚障害者でも固定しやすいような扱いやすい固定方法に,専用ツールである専用ブラウザはキー1つでモードを切り替えできるようにすることで,音声案内の切り替えをより確実に行えるようにした.

 今後の課題としては,改良を加えたシステムの評価と,触図を簡単に作成できるツールの作成などが挙げられる.本研究で用いる触図の作成方法はかなり煩雑であるため,ある程度のパソコンスキルが必要となる.より簡単に触図が作成できるようになれば一般の方も手軽に触図を作成できるため,その触図のデータを集めることでシステムの有効範囲は著しく高められると推察される.

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リンク

  ●立命館大学
  
  ●情報バリアフリー研究室

  2007年度 修士論文 『視覚障害者のための音声出力図』五島 幸訓氏


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