◆ 研究概要

 本研究は上肢障害者・児および高齢者が簡単かつ楽しくできるゲームを作成するというものである.そこで,今回の研究では1スイッチを要したゲームを試作し,2種類のオセロ(汎用ポインティングソフトを利用したオセロと分割法を利用したオセロ)の比較実験,ならびに比較評価を行った.双方共に,被験者には通常のマウスを使用してもらわずに汎用ポインティングソフトを使用してもらい,パソコンのモニタ上をスイッチ1つで操作できるという仕様で実験を行った.そして,2種類のオセロ共に回数を重ねるごとに得られる慣れ(学習効果)と駒を配置する際に生じる間違いによる依存性を調査するためにあらかじめ駒を配置する場所を指定して実験を行った.学習効果の面では,それぞれのオセロに対して駒を配置するのに要した時間,指定した場所まで上手に駒を配置することができなかった手数,場所などを記録した.そして,それぞれの被験者の記録をグラフにまとめ,1回目の実験から4回目の実験までの数値をとり,どれくらい早く操作できるようになったかを調査するものである.被験者の間違いによる依存性の面では,1種類のオセロに対して上手に配置することができなかった手数,場所を取り上げて,それが被験者ごとに比較したときに,どのような結果が得られるかを調査するものである.
 なお,汎用ポインティングソフトは,「できマウス。」プロジェクト開発の「できリング。」であり,タイプAと示す.また,分割法を利用したオセロは,同研究室の川隅氏が試作したオセロであり,タイプBと示す.





◆ 研究背景

 現在の情報化社会においてコンピュータは人にとって欠かせないツールとなっているのが現状であると考えられる.ところが,障害者,高齢者に対しては情報化社会に対する恩恵を受けることが少ないであろう.障害者数,高齢者数は年々増加傾向にあるため,この人たちにとって不自由のない暮らしというものが,今以上に求められてくる.そうした環境の中でも娯楽というものは必要であり,特にゲームに勝つことによってプライドも保てることもあるであろう.





◆ 比較実験の形式

 今回の実験ではあらかじめ決めている場所に実験者,被験者共に駒を配置するという実験形式で行った.実験者が被験者に対して次に駒を配置する場所を示し,被験者がそれぞれのオセロでそれぞれの仕様に基づいて駒を配置していくという形式で実験を行った.なお,駒を配置していく順番は先に実験者が駒を配置し,その後に被験者が置くこととする.
 本実験の被験者については,本来なら障害者の人に実験を協力してもらうのが本研究のテーマとしての目的ではあるのだが,条件的にも障害者の被験者の確保が困難であるため,今回の実験は複雑な操作や素早い反応が不得手な高齢者に協力してもらって評価実験を実施した.





◆ 評価実験の結果(平均所要時間)

 1を一見してみると,タイプAのオセロ,タイプBのオセロ共に1回目から4回目に対する学習効果は現れていると考えられる.現に,被験者8人の1回目から4回目までの平均所要時間がタイプAでは12.5%,タイプBでは21.4%軽減されたことがわかった.




                図1:被験者8人の平均所要時間





◆ 評価実験の結果(標準偏差)

 2種のオセロの実験データを平均所要時間と標準偏差についてグラフ化を行った.ここでは,被験者1人の手数ごとに現れる所要時間の「ばらつき」を標準偏差で表した.ちなみに,所要時間のグラフは被験者8人の1回目の実験から4回目の実験における所要時間の平均のグラフである.各手数の所要時間の点において,上下に伸びた黒い線が標準偏差を示している.
 2,図3のように被験者8人の所要時間のグラフと標準偏差を合わせることで,手数ごとのばらつきが伺えることができる.タイプAは時間がかかればかかるほど,ばらつきが大きいことが図4.6によってわかる.一方,タイプBはタイプAと比べると,図4.7よりそれほど所要時間とばらつきが比例していないということが伺える.
 同様に,標準偏差より黒い線が長いほど操作するために要した時間が,各被験者に対して差が大きかったというわけである.




            図2:タイプAの平均所要時間と標準偏差の比較






            図3:タイプBの平均所要時間と標準偏差の比較





◆ 結論

 学習効果の面は,タイプAB共に現れたといえる結果となった.しかし,タイプAとタイプBの差はタイプBの方が素早く操作することができ,所要時間も3倍近く差があることがわかった.配置する位置による失敗の依存性の面では,2種類のオセロ共に失敗した位置によって依存性があり,被験者8人とそれぞれ実験を行ったが,比較実験中からも,結果処理場からも,おおよその決まった位置での失敗が見受けられた.被験者全体では,1回目から4回目までの実験の中で,タイプAは被験者Aさんの4回目の実験のときに,失敗が無い実験結果となった.一方,タイプBは被験者Eさんの4回目の実験のとき,被験者Fさんの34回目のときにそれぞれ失敗がない実験結果となった.正直,タイプAのオセロは操作が複雑なため,失敗がないという実験結果は予想できなかった.





◆ リンク

 ・立命館大学

 ・情報バリアフリー研究室

 ・「できマウス。」プロジェクト
 

2008年度 卒業論文 川井田健太

1スイッチ入力による2種のオセロゲームの操作性の比較