卒業論文
2007年度卒業
田中 康文
「視覚障害者用音声出力図」


目次

1.目的と概要
2.序論
3.システムの構成
4.結論


1.目的と概要

 視覚障害者と言えば点字というイメージがあるが,実際に点字の読むことのできる視覚障害者は全体の1割程度しかいない. 点字を読むことのできない視覚障害者が,地図や点字案内図を使用するとき,輪郭などを読むことができても,その輪郭が 何を意味するのかなどを理解することができない. その人たちのために,タッチパネルを用いて地図や点字案内図の点字の代わりに音声出力ができる点字案内図を試作した.


2.序論

 点字を読むことのできない視覚障害者が触図を触読できない問題点が以下の4つである.

1. 点字が読めなくてはならない.
 触図は,視覚障害者が使うためのものであるのでテキスト情報はすべて点字で書かれている.点字の読めない視覚障害者は全国 で約12万人いる.さらに,糖尿病予備軍の人々のことを考えると,点字の読めない視覚障害者はさらに増えることが容易に予想 される.

2. 触図・点字の一部が省略される.
 触図では,図の輪郭線などを,凹凸のある点線や,浮き上がった線で描かれている.しかし,触図自身に記載できる情報量には 限りがある.その理由として,図が細かくなってしまうと線と線が重なってしまったり,図情報の線とテキスト情報の点字が重 なってしまったりして,触読が困難になるので,図情報と点字の一部分を省略する必要が出てくる.さらに図に記載されている 情報の予備知識が無いと理解しにくいということもある.

3. 1枚の図が複数枚の触図に分けて表現される.
 2で情報量が多いと触図を省略すると記述したが,触図の中でも省略できない図情報が存在する.そういった場合は触図を複数枚 に分けることがある.滋賀県の地図を例に挙げると,晴眼者が使う地図には鉄道名,都市名など全ての情報が記載されているが, 触図で滋賀県の地図を作成する際には,都市地図,鉄道地図と複数枚に地図をわける必要がある.これは地図に載せる情報量が多 いため,各市の境界と鉄道の路線が重なってしまい,区別が困難になるためである.

4. 触図の種類により表現方法が異なる.
 触図でも表記する内容により記号が使用されるが,記号などに明確な基準が無いため,作成者によって表現方法が全く違うため, 理解が難しくなる.

 これらの問題点から,1の問題を解消するために,触図から点字などのテキスト情報を音声情報に置換する.その結果,2の問題 のテキスト情報と図情報の重なりを解消でき,3の問題もある程度解消できる.4の問題に関しては明確な基準をこちらから提示 することも可能だが,本研究では記号などを用いらず,音声情報で補うことにした.


3.システムの構成

 本システムは,
(1) 指で押された部分を検知するためのタッチパネル
(2) 使用する触図の確認,及びシステム上の図データと音声データを切り替えるためのQRコード・QRコードリーダ
(3) 音声出力を行うスクリーンリーダ
(4) システム上のモードを切り替えるためのテンキー
(5) システムで使用するために調整された点図,もしくは立体コピー機で作成された触図
(6) システム上の図データの作成を補助するためのツール
(7) 音声出力アプリケーション
以上の7つから構成されている.
 なお本研究では,クリエーションコアの音声出力する施設案内図を作成する研究を行った.
システムの構成と外観は下図の様になっている.





4.結論

 点字を触読することができない視覚障害者のために,HTMLでシステム上の図データを作成し,触図のテキスト情報を除去し, 調整した触図にQRコードを貼り付け,QRコードリーダで読み込むことによってシステム上の図データを切り替え,取り付け型 のタッチパネルに触図を貼り付け触読し,強く押された部分を音声で返し,必要に応じて案内する音声をテンキーで切り替え ることができるシステムを試作した.
 この試作したシステムを用いることで,点字を触読することができない視覚障害者は,タッチパネルに貼り付けられた触図 の知りたい場所を強く押すことで,その場所のテキスト情報が音声で流れるので,触図を理解することが容易になった.点字を 触読することができる視覚障害者でも,従来は触図に点字が入っており,点字と図を頭の中でわけて読み取る必要があったが, このシステムでは点字が除去されており,図を理解するだけでいいので,触図を触読する際の負担は軽減することがわかった.
 現在の本システムでは,触図やシステム上の図データ(HTML)を自分で作成する必要がある.しかし,この手法では1つの触図 と図データを作成するのに膨大な時間がかかる.
 そこで今後,触図やシステム上の図データ(HTML)を簡単に作成できる方法が必要であると考えられる.システム上の図データ を作成する手法は2通りある.図形要素で構成される「図形データ」を用いる方法と,スキャナ等で取り込んだ「画像データ」 を用いる方法である.
 前者の場合,ドロー系のソフトウェアを用いて,点や線で輪郭などを作成し,音声を流したい部分に出力する音声情報を登録 しながらシステム上の図データを構築するソフトウェアと,作成された図から触図を作成するソフトウェアが必要であると考え られる.
 後者の場合,スキャナ等で取り込んだ画像を修正した後,画像処理(エッジ検出等)することで画像から輪郭を取り出し,必 要な部分に対して音声を登録していくことにより,システム上の図データを構築するソフトウェアと,触図を作成するソフトウ ェアが必要であると考えられる.

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