近年,高齢者や生活習慣病の人が増加している.生活習慣病を予防するためには栄養のバランスの取れた食生活が大切だと考えられているが,高齢者の中には,食べることや作ることが大変な人もいる.介護が必要となってきている高齢者向けの食事を作る介護者も,嚥下能力の低下による誤嚥を避けて,その人の身体状態に合った食事を,3食365日分の献立を考えることは難しいと考えられる.現在,料理を作る際に,たくさんの紙媒体のレシピの中からその人の嚥下・咀嚼能力に合った料理を探して作らなければならない.
そこで,本研究では高齢者や病気の人が誤嚥しにくく,飲み込みやすい料理を作る人への支援を目的とした,個人の食事能力や特徴に適合したレシピを検索・表示するシステムを試作した.
誤嚥とは飲食物や唾液などの一部が食道でなく喉頭に入り,声門を越えて気管に入ることである.誤嚥とむせは同じものと誤解されている場合が多いが,飲食物が喉頭・気管に入りかけたとき,これを排出しようとして起こる反射的なセキがむせである.酸味などの刺激でも起きるのでむせている人が必ずしも誤嚥しているとは限らない.嚥下機能が正常な人でも誤嚥は起こるが,この場合、激しいセキが出て食べ物は気道からのどや口に押し戻される.しかし,嚥下障害で誤嚥を繰り返していると粘膜の感覚が低下して,誤嚥してもむせが起きなくなってしまう.このような状態から誤嚥性肺炎へとつながっていくことが多い.表1を見ると,高齢者の死亡者数は,溺死・溺水に次いで食物の誤嚥が2番目に多いことが分かる.
表1 家庭内事故における高齢者の死亡数(平成9年)
原因
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人数
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溺死・溺水
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2,400人
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食物誤嚥
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1,855人
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スリップ・つまずきなど同一面での転倒
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735人
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煙・火・火災など
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523人
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階段・ステップなどからの転倒
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271人
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建物からの転落
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157人
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そ の 他
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1,542人
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総 数
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7,483人
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生活習慣病とは,食生活や運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣によって引き起こされる病気で,かつては「成人病」と呼ばれていた.生活習慣病にはさまざまな病気があり,日本人の3分の2が生活習慣病で亡くなっている.代表的な病気として,骨粗鬆症,アルコール性肝疾患,肥満症,痛風,高血圧症,糖尿病,高脂血症,心臓病,がん,脳卒中などがある.
生活習慣病は,遺伝的な要因もあるが,食生活や運動,喫煙,飲酒,ストレスなどが深く関わっている.普段の生活習慣を見直し,生活習慣を改善することにより,病気を予防し,症状が軽いうちに治すことも可能である.

図1 生活習慣病の患者数
高齢者や病気の人の身体特性を入力することにより,エネルギ摂取量や病気ごとの摂取カロリの制限を算出し,個人に適した料理・エネルギ・調理方法を導出するシステムである.
本システムの特徴は次の3点である.
(1)
年齢,性別,BMIの数値により、ユーザの一食に摂取できるカロリが分かる.
(2)
ユーザの咀嚼,嚥下能力が分かる.
(3)
病気,アレルギごとに適した料理を案内する.
試作したシステムではVisual Basic.NETを使用して作成し,CSV形式のファイルを読み込んで,結果を出力するシステムを作成した.

図2 システムの実行画面1
システムを実行すると,図2のような入力画面が表示される.「性別」「年齢」を選択するラジオボタンがあり,この2つを選択することによって1日に必要なエネルギの最低値を算出する.「身長」「体重」を入力するフォームがあり,それらを入力することにより,BMI値を算出する.「病気」「アレルギ」を選択するチェックボックスがあり,選択することにより,食事の制限がかかる.

図3 システムの実行画面2
ユーザの身体特性を全て入力し,「次へ」ボタンを押すと,図3のような入力画面が表示される.この画面では,より個人に適した料理を案内するため,質問にラジオボタンで「はい」か「いいえ」を選択する.これらの質問により,ユーザの咀嚼と嚥下のレベルを算出する.

図4 システムの実行画面3
「次へ」ボタンを押すと図4のようなユーザの身体に合った料理一覧が左側に表示される.料理名をクリックすると,その料理ごとにエネルギやたんぱく質,炭水化物などの栄養価が表示する.検索結果一覧の中からユーザが食べたいと思った料理をクリックすると,右側の選択一覧に料理名が表示される.選択一覧の料理名をクリックし,「レシピへ」ボタンを押すと図5の出力画面が表示される.

図5 システムの実行画面4
本研究では,高齢者や病気の人が誤嚥しにくく,飲み込みやすい料理を作る人への支援を目的とした.現在,料理を作る際に多くの紙媒体のレシピの中からその人に合った食事を1日3食,1年365日分の献立を考えることが難しいと思われる問題点がある.それを解決するために,Visual
Basic.NETを使用して「身体状態を考慮した料理案内システム」を試作した.簡単な入力によって,ユーザの身体情報と,質問文による咀嚼・嚥下レベルが決定でき,ユーザに適した料理の検索・表示ができるシステムが作成できた.案内する料理の幅を広げることによって,ユーザにとって使う価値のあるシステムになると考えられる.
今回試作したシステムは,パソコンに不慣れな高齢者も使うことを考え,できるだけ簡単な操作やフォントに重点を置きながら作成した.現段階では,案内している料理の数が少ないことから,完璧なシステムであるとは言えないので,評価実験をしてもらい,機能を拡張してさらに充実したシステムにする必要がある.
立命館大学
立命館大学 情報理工学部
立命館大学 情報バリアフリー研究室
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