重度障害者のための入力機器自動選択システム


Contents
1,研究の概要
2,社会的背景
3,本研究で作成したシステム
4,まとめ
5,リンク



1,研究の概要

 現在,パソコンは障害を持つ人々にとって,非常に重要なツールとなっている.しかし,怪我や病気で肢体に障害が発生した場合や,生まれつき障害を抱えている場合は通常の入力機器の使用は困難である.このような場合のために障害者用の入力機器が開発されているが,障害者の身体特性は個人のばらつきが非常に多く,障害者用の入力機器の種類も多岐に渡るため,障害者が自分に適した入力機器を選択することは難しいのが現状である.障害者が自分で自分に適した入力機器を選ぶ場合,現在存在している入力機器紹介サイトでは目的の機器に到達しづらい.専門家に探してもらう場合は,専門家が自分の知っている選択肢の中からその患者に最も適したものを選択していたが,このような方法では時間がかかったり経験の共有化ができなかったりと多くの問題点がある.
 そこで,本研究では,ユーザの可動部位の特性を与えれば,最適な使用部位と入力機器の組み合わせを提示するシステムを作成した.


2,社会的背景

・障害者用入力機器とは
 障害者用入力機器とはコンピュータ入力機器に障害支援の機能がついた製品で,障害者がパソコンを使用できるようにするための道具である.肢体不自由者の障害は種類が非常に多く,程度の幅も広い.さらに,障害の部位および程度が人によって様々である.しかし,どの入力機器がその障害者に適しているかわかりにくい.

・障害者用入力機器の探し方
 障害者が自分で入力機器を探す場合,こころリソースブックというものがある.こころリソースブックは障害者用の機器を案内する本で, 数多くの障害者用機器や補助具を案内している.こころリソースブックでは障害者のニーズによって事例が分けられているので,目的の機器にたどり着きやすくなっている. しかし「ユーザの身体特性に関わらず,ユーザが自分で目的ごとに機器を探す必要がある」「ユーザの障害が事例に無い場合は機器を探すことができない」 などの問題点が残っている.さらに,障害者が多項目にわたるニーズを持っている場合,いくつもある事例から最適な機器を探し出すことはユーザに大きな負担を強いることになってしまう.
 専門家に選んでもらう場合,専門家が自分の知っている選択肢の中からその患者に最も適したものを選択している.しかし,このような方法では選択に時間がかかったり,専門家同士で経験の共有化ができなかったりするので,非常に効率が悪い.また,専門家の窓口がどこにあるのか分からない,軽度の障害では専門家に聞くことを躊躇ってしまう等といった状況から,障害者にとって利用しづらいのが現状である.
 そこで,本研究では障害者が自分の身体特性を入力すると,その障害者に最も適した入力機器を自動的に選択・提示するシステムを作成した.



3,本研究で作成したシステム

 システムを実行すると図1のような画面が表示される.タブ形式で頭部,右腕,左腕,右脚,左脚を入力する形式になっている.各タブには能力として「筋力」「巧緻性」「可動域」を選択するラジオボタンがあり,それらを選択することによって身体特性を算出する.各能力は3〜5つの項目から選択する形式となっている.「筋力」は「健常」「軽度の障害」「重度の障害」,「巧緻性」は「健常」「軽い不随意運動」「重度の不随意運動」の3段階とし,可動域は「健常」「軽度の障害」「重度の障害」「麻痺」「欠損」の 5段階とした.ただし,首の可動域だけは「欠損」が無いので4段階としている.選択項目を3〜5つにしたのは,操作を極力簡単にして入力の煩わしさを解消するためである.


図1 システムの実行画面1

図2 システムの実行画面2



 図2に示すように,筋力は「どれぐらいの力でスイッチを操作することができるか」に影響し,巧緻性は「不随意運動の有無・程度」を設定する.可動域はそれぞれの部位から「縦可動域」「横可動域」を算出する.また,腕と脚の場合は指で「先端幅の大きさ」を設定している.さらに,障害がある場合はその部位に対応して右にある人形の画像の色が変化するようになっている.また,ある部位が欠損状態になると,その部位より先の部位の入力ができないようになる.

図3 システムの実行画面3



 項目を全て入力し,OKボタンを押すと図3のような機器類表示フォームが表示される.機器類表示フォームでは,左側に算出したユーザの身体特性を表示し,右側にユーザが使用可能な機器を表示している.機器はポインティング機器と文字入力機器それぞれ最大上位5つを表示する.図3の場合,機器名の前に「(タイピングエイド)」と表示されているが,補助具としてタイピングエイドを使用すればその機器が使用可能であることを示している.また,機器名をクリックするとその機器の詳細画面が表示されるようになっている.



4,まとめ

 障害者が自分に最も適した障害者用入力機器を探し出せるように,障害者が自分の身体特性を入力すると,その障害者に最も適した入力機器を自動的に選択・提示するシステムを作成した.
 2006年12月22日に東京市ヶ谷で行われた『文科省科研費特定領域「情報福祉の基礎」成果報告会』において,日頃から身体障害者と接している方々や障害者用の機器を開発している方々に本研究で作成したシステムを評価していただき,意見をいただくことができた.また,1月25日に立命館大学BKCで行われた『電子情報通信学会 第34回福祉情報工学研究会』で発表した際も,数々の意見をいただくことができた. 頂戴した意見をまとめると以下のようになる.

○追加すべき項目
・成功率の考慮をしてはどうか
・押し続けられる時間の考慮をしてはどうか
・筋ジスなどの症例ごとに特化する・記憶力,認識力の考慮をしてはどうか
○現在の項目の再検討・スイッチ類選択のときも不随意運動を考慮するべきではないか
・単位を1/10mmぐらいにしてはどうか
・カテゴリ分けにMMT(徒手筋力検査法)を利用してはどうか
・考える部位が少ないのではないか.膝や鼻など使えるところはたくさんあり,動かし方も沢山ある.
○個人の好みの考慮
・個人ごとで使いやすい部位は違うのでそこは考慮するべきではないか
・個人の好みなどの考慮が必要ではないか
・脚でスイッチを押して手でトラックボールを使用している人もいる


 色々な方々にいただいたこれらの意見を元に,今後システムを改良し,より実用性の高いシステムにする必要がある.
これ以外にも2007年に立命館大学理工学部情報バリアフリー研究室の吉村が作成した「障害者用入力機器および補助具の使用事例検索システム」との相互連携も今後の課題として挙げられる.



5,リンク

●立命館大学

●立命館大学 情報理工学部

●情報バリアフリー研究室(教員)

●情報バリアフリー研究室(学生)