佐藤公哉(2005年度)修士論文
「意志伝達困難児用汎用コミュニケーション支援装置の試作」


本ページの内容

概要   背景・目的   試作品   評価試験   考察・結論   謝辞

・概要

 本研究では義務教育段階の障害児や,知的障害や自閉症などの要因でコミュニケーション能力に
障害を有する人が自分の意思を伝達する補助を行うシステムの一つとして,
重度の障害にも対応する意思伝達を補助するシステムをソフトウェアとハードウェアの両面からアプローチし、
実装及び評価試験を行った.

・背景・目的

 近年、障害の重度化や重複化が進行しており、それによって周囲の人と意思疎通や意志伝達を図ることが
困難になってしまう人が増加している。
 身体障害者の中でコミュニケーションが困難になるケースが多い障害は,視覚障害,聴覚障害,
音声・言語・そしゃく障害,体幹・全身機能障害である.障害を重複して有する人はさらに困難になっていることがある。
聴覚・言語障害と肢体不自由が重複した場合は,FAXやEメール等の文字情報を遠隔地に伝達する手段が必要になる.
また,視覚障害と聴覚・言語障害といったコミュニケーションの困難度が特に高い重複障害を有する人や,
3種類以上の重複障害を有する人など,日常生活や意思伝達が非常に困難になってしまう.
一方,視覚障害と聴覚障害を有する場合は,人間の持つ五感のうちの視覚と聴覚が失われてしまうため,
残りの触覚・嗅覚・味覚で周りの状況を把握しなくてはならなくなってしまう上,コミュニケーション手段として
音声・映像が使えないので,触覚を用いた指点字等しか残されていない.指点字は話し手と受け手の両方が習熟する必要があり
長期のトレーニングが必要になる.また,音声・言語・そしゃく障害と体幹・全身機能障害が重複した場合は,
自分の周りの見える範囲と聞こえる範囲の感受は可能であるが,コミュニケーションを取る際は,発話ができない上,
文字を書く・パソコンで文章を打つなどの細かい作業ができない場合が多いため,受け手は表情や,
残存機能を使った行動から推察することしかできないなど様々なケースが存在する.
知的障害と身体障害を有する人は,前述にあるコミュニケーションツールを使用することに多くの訓練が必要な場合や,
使うことができない場合が多いため,各個人の能力に応じたコミュニケーションツールなどを用意する必要がある.


・試作品

 本研究では,重度知的障害・重度身体障害の重複によって意思伝達(コミュニケーション)が困難な障害児・者が残存能力
に応じた形で本システムを操作し,自分の意思を表現することを可能にすることが目標である.
 そこで、障害状況や適合性に合わせて以下の5種類の表示形式のソフトウェアを用意した。

パネル形式:    初期段階の訓練や知的障害児に対応した,既製のVOCAと同じ形式で,ウインドウ内のパネルが変わらない形式.
タブ形式:     発展段階での使用を想定しており,表現できるアイコン数を増やすためにタブを用いてパネルを変更する形式.
リンク形式:    発展段階での使用を想定しており,表現できるアイコン数を増やすためにジャンル分けを用いており,
            初期画面で選択したいアイコンのある分類アイコンを選択してパネルを変更する形式.
単一走査形式:  初期段階の訓練や知的障害児,肢体不自由者に対応しており,ウインドウ中央に大きく
            1つだけアイコンを表示する形式.外部入力機器を用いる場合に適している.
縦3分割走査形式:単一走査形式の発展形式であり,1画面に3個のアイコンを表示するものである.外部入力機器に対応している.



また、介助者用ソフトウェアは,前述の障害児・者用ソフトウェアの設定を行うもので,使用するアイコンの変更,
出力する音声の録音,障害児・者用ソフトウェアの形式を選んで起動するソフトウェアである.


・評価試験

 評価試験では,本研究で作成したソフトウェア,ハードウェアが被験者にとって有益であるかどうかを検証する目的で行った.
 被験者の普段の生活では,横になっているか座位保持いすに座っている時が多く,全般的に受身の生活である.
しかし,本人なりに,家族や出来事に関心を持って生活している.その気持ちをできるだけ能動的に表現できるように
環境を整えたいと考え,このコミュニケーションエイドを使って本人の思いがまわりの人たちに伝わり,
やり取りを楽しむことができることや,自分から行動を起こすことで多くのことができるということを再認識してもらい,
今後のトレーニングを前向きに捉えてもらうことを目的として行った.


             評価試験風景

・考察・結論

 評価試験において、被験者が楽みながら評価試験を行うことができ,また操作にも根本的な問題が発生しなかったことで
今回の目標は達成できたと考えている.特に言語訓練の先生や家族など普段から接している人でない人にも自分の意思を
理解してもらえるようになる可能性を示すことができたのが一番大きい成果だと考えている.
 今のところ,日常生活において,常にパソコンと外部入力機器を置いておくことが困難なため,
対面でのやり取りでの使用が専らの使用方法だが,今後タッチパネル付きのパソコンや衝撃耐性のあるパソコンが
安価に普及すると,他の障害児・者にも使用機会が増えるではないかと考えられる.
 特に,自分の意思を伝えることができるようになったという喜びは,何事にも代えがたいものであることを実感した.
 実際に介護の現場で使用され,受動的な生活を送りがちな障害児が能動的に行動し、反応を学習することで
行動・訓練意欲の増進を期待している。

・謝辞

 本研究を行なうにあたり,常に暖かいご指導,ご鞭撻をくださった樋口宜男教授に深く感謝いたします.
また,評価試験にご協力頂いた方々に心より感謝いたします.
最後に本研究の遂行にあたり,ご協力を頂いた立命館大学情報理工学部メディア情報学科
情報バリアフリー研究室の諸氏に深く御礼申し上げます.