中村輝正 卒業研究 2004年度
「家庭電化背品の報知音の周波数識別精度」

何のために?     何をしたのか?     何がわかったか?     今後の課題

何のために?

 近年,さまざまな家庭電化製品において,利用者に動作状況を知らせる「報知音」を利用した製品が多く見られるようになってきた.家庭電化製品の動作が終了したことや異常が起こったことを利用者に伝える報知音であるが,その報知音は聴力の低下した人にとっては決して聞き取りやすいものとはいえない.報知音に利用されている周波数の多くのものが約2000Hz〜4000Hzである.しかし,聴力の低下した高齢者には2000Hz以上の音は聞き取りにくいと考えられる.そのため,報知音はその役目を十分に果たしていないという問題がある.そこで家庭電化製品の報知音の分析を通して,高齢者の聴覚機能変化から予想される問題点,それらの問題を解決するためのシステムについての検討を行った.

何をしたのか?

 先に述べた問題を解決するために提案するシステムについて述べる.


 部屋Aで家電の報知音が鳴ると,親機で報知音が鳴ったと感知する.報知音がなったということを親機から部屋Bにある子機へと伝える.子機で音や振動・音声を用いてユーザに家電の報知音がなったことを知らせる.これにより家電の報知音がなった部屋と違う部屋にいても家電の報知音がなったことがわかる.このシステムの中で今回は親機に着目した.親機作成にあたり,BPFを利用して報知音がなったかをどうかを判別しようと考えた.BPFとはある周波数範囲の周波数の信号だけを通過させ,それ以外の周波数の信号を減衰させるフィルターのことである.

 BPFを利用する上で問題となるのが,ある周波数範囲の選択である.つまり,通過帯域の選択である.通過帯域を選択する際にはある報知音に対してなるべく狭い範囲の通過帯域を選択することが望ましい.狭い範囲の通過帯域を選択することにより対象とする報知音のみを聞き分けることができるからである.例えば,4000Hzの音に対しては,3900〜4100Hzという通過帯域を選択する.ある音が4000Hzとわかっていればこの通過帯域を選択することは容易であるが,周波数のわからない音に対しては最適な通過帯域を選択することはできない.利用者の周波数識別精度が高ければ狭い範囲で通過帯域を設定できるが,周波数識別精度が悪ければ狭い範囲での通過帯域の設定はできない.そこで高齢者,若年者の周波数識別精度を把握するため,評価試験を行った.評価試験の手順を以下に示す.


図1:初期画面

図2:回答画面

                       

(1)図1で示した画面で終了音のサンプル音を聞く.
(2)簡単な計算問題を解く.
(3)図2で示した画面で(1)で聞いた終了音と近い音を選択する.
以上のような手順で評価試験を行った.
今回使用したポット,洗濯機,炊飯器の周波数成分はそれぞれ3973Hz,2500Hz,3962Hzである.

何がわかったか?

 評価試験結果,累積度数分布を以下に示す.


図3:ポットの評価試験結果

図4:ポットの累積度数分布

図5:洗濯機の評価試験結果

図6:洗濯機の累積度数分布

図7:炊飯器の評価試験結果

図8:炊飯器の累積度数分布

 ポット,洗濯機,炊飯器の終了音三つとも,識別精度がいいとはいえないことがわかった.どの音に関しても,音に対して1000Hz以上異なった音を選択した人がいることがわかった.高齢者の聴力特性よりポット,炊飯器の終了音に比べ,洗濯機の終了音は周波数が低いため聞き取りやすいと考えられるが,音の識別精度は周波数の高低に依存しないことがわかった.また高齢者と若年者との間で識別精度の差はほとんどみられなかった.これは一定時間(今回は約1〜2分程度)経過した際に,音を記憶する能力は高齢者,若年者とで差がないことを意味している.以上のことを踏まえると,利用者が手動で通過帯域を設定することは非常に困難であることがわかった.

今後の課題

 今回の研究では親機作成において狭い範囲のBPFを設計することを目的としてきた.しかし,評価試験の結果から利用者が手動で狭い範囲の通過帯域を設定することは非常に困難であることがわかった.よって今後はあらかじめ広い範囲で通過帯域を設定しておく広い範囲のBPFの設計が課題となる.広い範囲のBPFのデメリットとして“背景雑音の影響を受けやすいので誤動作する可能性がある”があげられる.広い範囲のBPFを設計する際には,背景雑音をどう処理していくかが重要なポイントとなる.

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